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「時間を止めます。」
咄嗟に口をついて言葉が出た。
車を浮かせたり、瞬間移動させたりすることもできるだろう。言ってから色々な考えが思い付いたが、もう遅い。
「それか、赤ちゃんの病気の進行を止めます。」
私は、少し驚いたような表情をしている鳳さんを力強く見つめ返す。
鳳さんは、ニコッと笑うと、
「この問題の解決策は主に2つ。1つは車に注目して物体を動かし、瞬間的にあるところに移動させる。もう1つは、赤ちゃんに注目して、赤ちゃん自身の病気の進行度を止めたり遅くするという方法ね。『瞬間移動能力』と『停止能力』。あなたのアビリティスコアの結果を見ると、このどちらの力も使いこなせるという風に結果が出ているわ。だから、問題を通して、どちらの力にするか、あなたに選んでもらおうと思ったの。」
「それで、私は後者を選んだわけですね」
私は、肩の力が一気に抜けて、息を大きく吐いた。
鳳さんは大きく頷いて、
「ただ、『停止能力』は、あらゆるものを止められる能力だけど、段階があって、最初は物の動きしか止められないの。あなたが言った時間は、止めるのに技術がいるから、経験を積まないとすぐには無理ね」
と答えた。
そして、ポケットから一羽の折り鶴を取り出すと、頭より高い位置にあげた。
「今から、この折り鶴をこの位置から落とします。あなたは止めたい対象を見つめ、自分の『能力』を使うことを強く意識してみること。そして、『能力』を使用する前に自分のリストバンドを二回叩く。これを意識してみて。」
「はい」
私は、返事をすると、淡いピンク色の折り鶴を見つめた。
折り鶴は、鳳さんの手を離れ、音もなく、静かに地面に向かっていく。
「止まれ」
私はゆっくりと落ちていく折り鶴を目で追いながら強く念じ、自分のピンク色のリストバンドを二回叩いて、上からぎゅっと握りしめた。
すると、地面より少し上空で、折り鶴は頭を下に向けたまま、ピタリと停止した。
まるで透明な糸で上から吊るされているようだった。
「止まった!」
『能力』が使えるようになったという実感が沸沸と湧いてきて、背筋が伸びるようだった。
「よし、じゃあ、これで実技試験は終わり」
鳳さんは、浮いている折り鶴をそっと空中からつまみあげると、私に手渡した。
「このあと大講堂で、全体の説明会があるから必ず出席すること。それと、私からはこのブレスレットと、能力認定パスを渡すわ」
そう言って、黒色の天然石で作られたブレスレットと、クレジットカードくらいの大きさのプラスチックカードを渡された。
プラスチックカードには、「階級認定;大智、能力;停止」という文字と、事前に提出した顔写真がプリントされ、その横に私の名前が「牧 沙都子」と刻まれていた。
「全体説明会で、どちらも説明があるから、よく話を聞くこと。お疲れ様でした」
「あの…!」
私は、立ち上がって、頭を下げた。
「ありがとうございました」
鳳さんは、
「あなたなら大丈夫。がんばって。」
と見送ってくれた。とても優しい目だった。
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