ブドウとネクタイ

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 朝のカフェはほぼ毎日同じ顔ぶれである。カフェの中央に座り読書をする五十代位の女性――文庫さん、電源席でマックブックを広げる会社員――意識高い系、窓際の席で英語の勉強をしている――その歳で勉強なんて偉いね、喫煙席で電子たばこをふかす――禁煙すれば良いじゃない。  そしてもう一人がピンクネクタイ。  ピンクネクタイはその名の通り、まるでそれが制服であるかのように毎日ピンク色のネクタイをしていて、印象の薄い顔には黒縁眼鏡を掛けていた。中肉中背で歳は二十……ううん三十代くらい。取り敢えず私より年上だと信じている。  彼は決まったルーティンを持っていなかった。手帳を広げていることもあれば、スマホを黙々と弄っていることもある。ぼんやりと店内を眺めていることもあれば、ノートパソコンを広げていることもある。いや、彼がカフェで彼が何をしようと構わないのだけれど……  問題なのは彼も私のお気に入りの席を狙っているということだった。  カフェに着く時間がほぼ同じなものだから――もしかしたら同じ地下鉄に乗っているのかもしれない――どちらがその席に座るかは運次第。日替わりで順番になんて暗黙の了解が生まれることも無く、先に来た方が問答無用でその席をゲットする。非情である。今月の戦績は私の五勝八敗。悔しい。負けが込んでいる。
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