ブドウとネクタイ

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「わはははは。やっぱり騙されねぇか」  保はフレームの横から人差し指を差し入れ、目尻に滲んだ涙を拭う。 「当たり前よ」 (正論だから、一瞬流されそうになったけど)  私は唇を尖らせて頬を膨らませた。保は両手を上げ後頭部を押さえるようにして背もたれに体重を乗せる。  私はうんと一人頷いた。 「だからこれからもデザインを見せたりしないし、この席を譲ったりもしない。ピンクネクタイ(・・・・・・・)さん」  最後のあだ名を強調してテーブルの上で拳を握る。保はゆっくりとネクタイのノットに指を伸ばした。 「分かったよ。ブドウちゃん」 「鈴蘭!」  アハハと笑う顔に、私も釣られて頬が緩む。保はどこか楽しそうに続けた。 「じゃあさ。同時に着いたら一緒に座るっつーのはどう?」 「今日みたいにってこと?」 「そう」  黒縁眼鏡の奥で糸のように目が細められる。これはナンパなのかもしれない。愛想笑いで話を合わせる社内営業をしなくても良くなる、そういう類いの奴。
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