キズ より、カイと廻流のお話

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 いつも通りにアルバイト勤務に勤しんでいると、店内放送が流れた。  レジ応援を求める内容に、商品補充の一区切りがついたカイは救援に向かう。  時間帯から夕食の買い出しが多いこの時間は、大概レジ応援が入る。  普段通り手際よく裁いていると、幾つかの野菜が入ったカゴがきた。 「いらっしゃいませ、お預かりしまーーー」  そこでカイは、会釈しながら口にしていた言葉を切った。 「…………ふふ、お疲れさま」  顔を上げた先にいたのは、同じ学校の和崎廻流だった。  不思議な雰囲気を纏う廻流と知り合ったのはつい最近。  今では昼食を共に摂る仲だ。 「ん、サンキュ。ちょっとびっくりした」 「なんか、新鮮」  職場に知り合いが来るのは、なんだかこそばゆい。  軽く話しながらも次々と商品をスキャンしていく。  見ると購入するものは野菜ばかりだ。  ニンジンにゴーヤ、きゅうりに大根……。 (何の料理に使うんだ?)  恐らく家で頼まれた物を買いに来たのだろうが、これらを用いた料理が思い浮かばない。 (まあ、いくつかの料理につかうんだろ)  そう思い至るが、カイには邪な考えが浮上する。 (よく見れば、みんな棒状だな……)  あくまでこの考えは、廻流の様々な場面を見ているから思い至ったのであって、普段からそういった思考があるわけではない。  決して廻流のせいでもカイのせいでもない。予め言い訳をしておこう。 (な、何に使うんだ……?)  そう、カイ頭には卑猥な想像が、浮かんだのだ。  これらの野菜を用いたプレイなるものを。 (ちっ、違う!)  懸命に拭い去ろうも、ひと度浮かんだ想像はなかなか払拭できない。  廻流との出会いも情事からだった。その後も幾度か、そういった場面に遭遇している。 「……カイ?」 「……なっ、なんだ!?」 「どうしたの。大丈夫?」 「だ、大丈夫」  誤解のないようにもう一度云おう。カイのせいでも、廻流のせいでもない。  少し、魔が差しただけだ。 「本当に?」  カイの見慣れない様子に、廻流は心配そうに顔を見る。   「ッ!」  廻流のあられもない姿が浮かんできた手前、今彼の顔を目にするのは些か気まずい。  艶やかな髪がしっとりと揺れ、伏し目がちな潤んだ瞳がカイだけに向けられる。  落ち着く前に更に鼓動が跳ね上がる。 (本当に綺麗だ)  男に対する言葉として適切ではないかもしれないが、廻流はとても美しい。  そんな彼の姿は時として毒にもなる。  一向に落ち着く様子のないカイの心臓は、脈を打つ度顔に血を送る。 「悪い……大丈夫だから、気にしないでくれ」 「………」  商品のスキャンを終えた手で誤魔化すように顔を扇ぐ。  訝しんでいた廻流は、カイの赤くなった顔からなんとなく察しがついた。 「もしかして……何に使うか気になったの?」 「!?」  半分カマをかけたものだったが、カイの反応に間違いではないと確信する。  そうと分かった廻流は悪戯げに微笑むと、敢えて無邪気に爆弾を投下した。 「このあとはまっすぐ家に帰るから心配しないで。お野菜たちに頼らなくても大丈夫だから」 「……そ、そうか……」  あからさまに安堵するカイに廻流は畳み掛ける。 「先生は物を使うの好きじゃないみたい」 「!!!?」  突然の告白にカイは目を見開いて廻流を見た。  視線の先の彼はゆっくりと口角を持ち上げ、カイを見つめた。 「……っ……ごめんね……っ、フフフ」  カイの同様っぷりにたまらず噴き出す廻流。  もはやプチパニックなカイはどうしていいのかわからずに固まってしまった。 「冗談だよ。母さんにおつかい頼まれただけ」  まだじわじわと込み上げる笑いを抑えきれず、小刻みに肩を震わせながらネタをばらす。  やっと指示が入るようになったカイの頭で認識すると、廻流をジロリと睨めつけた。 「ごめんて。カイの反応がとても面白くて……」 「……お会計いいっすか」  半分照れを隠すために、ぶっきらぼうに云い放つ。  尚も笑う廻流には、そのこともお見通しなようで気に入らない。 「はい、お金」  受け取った金銭をレジに打ち込み、釣り銭を返す。  レシートと釣り銭を返す手が震えていたのはきっと廻流に気付かれているだろう。 「……ありがとうございましたー」  殆ど棒読みで云った挨拶に、廻流はクスクスと笑っていた。  その後てきぱきと袋詰めを終えると、偶然客のいなかったカイに向かって云う。 「カイ、またね。…………カイは……そういうプレイ好き?」  全く、とんでもない置き土産をしてくれたものだ。 end.
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