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・えぴろーぐ。
頭の中で、目覚まし時計が鳴っている。
しばらくの間、俺は我慢していたのだが、さすがに耐えられず、目を擦り、スマートフォンのアラームを切った。
ゆっくりと覚醒していくのを感じながら。まどろみの中で、俺はある妙な違和感に気づく。
『ベッドの中に、いつもあるハズのモノがなくて、いつもないハズのモノがある』、と。
――セレンの抱き枕が、ない。
その代わりに、なぜか、奏が眠っていた。
「……おい、起きろ」
奏の頬を引っ張り、こねくり回す。すると奏は、とろんとした目で俺を見てきた。
「……兄貴、おはよう」
「おはよう。……じゃねえ! なんでおまえが上のベッドで一緒に寝てんだよ!!
おまえのベッドは下だろうがっ!!!」
「でも、下は『あのコ』がひとりで寝てるから」
「は? ……あ″ーーー!!
なんで俺のセレンが下のベッドに入ってるんだよ!」
「だって、『あのコ』が、『今日はふたりで寝てくださいね』って言ってたから」
「言うか! だいたいおまえ、なんで眼鏡かけたまんま寝てんだよっ!」
「そんなの、決まってる」
奏は、寝間着のボタンを外しながら、妙な色気すら漂わせ、俺に、ずい、と顔を近づけた。
「朝起きて、すぐに兄貴の顔が見られるように」
左足で、思いきり蹴飛ばす。
奏は、何か断末魔のようなものを叫びながら、床に落下した。
<おわる>
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