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「……どこで読んだんだったかな。小さい頃、何かの本に、『初恋が叶う事なんて、ほとんどない』って書いてあったんだけど。俺、その言葉が大嫌いだった。
だって、人生って、1度きりだから。
初めて好きになった相手と結ばれないって、なんか、すごく、つらい事だと思うから。
……だから。俺、『その人』に振り向いてもらうために、毎日、すごく、頑張ったんだよ。
いろいろな事を、頑張ったんだ。
結ばれるためには……たくさんの『障害』があるけど。
でも、この気持ちは、きっと誰にも負けないだろうって思ってた」
奏の体重が、体温が、俺の全身に移る。
奏は歌を唄うように、なおも、続けた。
「……でもね、『その人』には。
……『その人』にも、大切に思っている女性がいて。
その女性は、『俺にないモノ』を、『全部』持ってた。
他人も。
性別も。
心も。
……でも。俺、それでも、その女性に、絶対に負けたくないって思った。
だって、『その人』の事が、俺、大好きだから」
そこまで一気に捲し立てて――奏はふと顔を上げた。
相変わらずの近い距離から、「勝つから」と囁いてくる。
「兄貴。……俺、勝つから」
その表情には、不安や憂いといった感情は、まったく含まれてはいなかった。
ただ、悪戯っぽく、俺の事をじっと見つめている。
俺は、そんな奏を見ているのが気恥ずかしくなって、耐えられなくなって――目を閉じて、奏の額に、自分の額をぶつけた。
「……勝てるといいな」
「応援してくれるんだ?」
「今は、無理だ。……でも、多分いつか、きっと応援する。
奏の幸せは、俺の幸せだから」
奏は、ふふ、と笑った。
「――いつまででも、待つよ。
待つのは慣れっこだから」
もう、16年も待ったんだから。
奏はそれだけ言って、俺の胸に、顔を埋めた。
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