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「そっちへ行っちゃダメ」  怒気を孕んだ母の声が聞こえたような気がして、ガタッと机を揺らした。  顔を上げると、周りの生徒たちは何人かずつのグループを作りおしゃべりに花を咲かせていたので、まだ昼休憩時間だとわかってほっと胸を撫で下ろす。  佐野(さの)由偉(ゆうい)のうたた寝に気づくものもちらほらいたが、彼女らはそっと遠くから見守るのみで、決して近寄りはしない。由偉に近づいてもいいことがないことは、直感的にも現実的にもわかりきっていることだった。  高校二年生にもなると噂でわかるが、由偉は一年生のころ、同級生、先輩などから次々と告白されて注目の的だった。  一般的に噂というものが一人歩きすることが多い中、由偉に関する噂はほぼ全て事実で、彼は告白してきた全員に対して痛烈な言葉を浴びせ一瞬で退けたため、失恋同好会なるものができたくらいだった。  一日で数人に告白されることもあったらしく、その日の由偉は誰も近寄れないほど禍々しいオーラを放っていた。その禍々しいオーラを突き破ったのが当時同じクラスの青山翔太(あおやましょうた)だ。
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