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絵が完成した。
主人は喜んでねぎらってくれ、焼き立ての大きなバケットを三本ずつもくれた。
お礼を言って帰ろうとしたとき、ファミルが肘でアントーネをつついた。
アントーネは、無意識に大きく息を吸い込んだ。
そして言った。
「あの。もしよかったらなんですけど。
僕に毎週、この黒板を描かせていただけませんか?」
主人が戸惑った顔をした気がして、アントーネは身を固くした。
「いえ、あの」
アントーネが前言撤回しようとしたとき、
「本当かい?」
と主人が笑った。
「え?」
「それは助かるよ。ただ、賃金は払えないから、パンになってしまうけど」
「ありがとうございます!」
二人は同時に叫んだ。
こんなにパンがもらえたら、その分のお金で少しずつ絵具が買えるだろう。貯金だってできるかもしれない。
二人は、来週もっと早い時間に来て黒板を描くことを約束して、噴水のある公園へ戻っていった。
公園に、あの教師がいてくれたらいいのだが、と胸を弾ませながら。
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