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1.
公園から南東へ、湖沿いにのびる舗道を、二人の少年は散歩していた。
工場から休暇を与えられる日曜日には、決まってそうする。
景観の美しいその道では、たくさんの日曜画家たちが絵を描き、描いた絵を売ったりしている。
その売られている絵を見て歩くのも、アントーネには楽しみのひとつだ。
しかし、ファミルは不満げな顔でいつもこう言う。
「おまえが描いたほうが絶対に上手いんだ」
アントーネは苦笑するしかない。
「無理に決まっているよ。僕は絵筆を持ったことすらないんだから」
たしかにアントーネは故郷にいるころから、「絵だけはうまい」と親にも言われていた。だけどその絵は、土に棒切れで描いた絵のことだ。
貧乏な彼の家では、鉛筆一本、紙一枚さえ貴重で、ろくに手に入らなかった。
家の事情はファミルも似たようなものだ。
だから二人はこうして、故郷から馬車で三日もかかるこの街の工場で働いている。口減らしになるだけでも家計は助かるからだ。
それに工場では宿舎が用意されていて、少なくとも寝る場所には困らない。
十歳でここへ来て二年になる。
学校は途中でやめてしまったが、もともと生家にいるときから、煙突掃除や鉄くず拾いで忙しく、ろくに学校に通ったことはない。
だから学校には未練も感じなかった。
「そうだ。絵具を買えばいいんだよ」
唐突にファミルが言った。
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