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 ファミルは、アントーネと共に、いつもの商店街にいた。  ファミルはずっと以前から、パン屋の手前に画材店があるのに気づいていた。  それなのに、絵が好きなはずのアントーネは、いつだってそこを素通りする。まるで、その店の存在に気付いてすらいないかのように。  毎週、公園で絵を売る日曜画家たちの絵を見るたび、ファミルは思う。  アントーネにも絵を描かせたいと。  彼の絵だったら、公園にいる人たちの絵に引けを取らないんじゃないかと、ファミルはいつも思っていた。  そして今日こそ、アントーネに絵を描く道具を買わせてやるんだと思った。  彼は嫌がるアントーネを無視して画材店にひとりで入った。  きっと、ついてくるだろうと見越していたアントーネは、やはりついてきた。  ファミルから見ると、絵具は思っていたほど高価ではない。  食事を少し我慢すれば、すぐに道具なんてそろう。彼はそう思った。 「無理だよ。いらないよ」  拒否するアントーネを無視して、ファミルは店員に、水彩画を描くために必要な最低限の道具を揃えてもらった。  しかし揃えてもらった後で、それらを全部買うには、今持っているお金では全く足りないことに気が付いたのだ。 「ほら。無理だ」  アントーネは、店員に申し訳なさそうに謝り、ファミルを非難した。  二人はがっかりしながら店を出た。  そして、いつも通りの生活を続けるのが一番安全で、彼らにできることなのだと結論を下さざるを得なかった。
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