10人が本棚に入れています
本棚に追加
そこでファミルは、はっとして目を覚ました。
彼は、工員宿舎のベッドにいた。
八人部屋の隣のベッドでは、アントーネがまだ眠っている。
夜明けにはまだいくらかありそうな時間だ。
夢、だった。
ファミルはまだ寝ぼけている頭で考えた。
今のは夢だ。
だって現実には、アントーネはチョークを買い、自分で描いたその絵で、お金を手に入れて、ちゃんと鉛筆と画用紙を買ったのだから。
ファミルは故郷にいるときからいつも、同い年のアントーネを、ちょっと頼りなくて気が弱い弟のように扱ってきた。
ずっと、アントーネの面倒を見てきたつもりでいた。
だけど今日、アントーネは自分でどうするかを決めたのだ。
余計なことを強制しなくてよかった、とファミルは思った。
もし、いつものように自分がすべてを決めていたら、今見た夢の通りに、何も変化の起こらない日常を、二人は延々と続けるだけだったかもしれない。
それに、パンを減らすことは、もともと食が細く体力のないアントーネには危険なことだったかもしれないのだ。
「ごめんな」
とファミルはアントーネの寝顔につぶやいた。
最初のコメントを投稿しよう!