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3.
次の週の日曜日、二人は噴水のそばにじっと座っていた。
アントーネは、ポケットの中でチョークを弄んでいる。
ファミルが怒っているのがわかるので、どうにも気まずい。
ファミルは、もう何度目かになる同じ台詞をまた言った。
「描かないと、何も先に進まないだろう」
「だけど」と、アントーネもまた言葉を濁す。
月曜日に、二人は工場でひどく殴られ叱られたのだ。
誰かが、日曜日に二人が公園でパフォーマンスをやってお金を稼いでいると上司に告げ口したらしい。
「ちょっと、散歩に行こうよ」
「……いいけど」
アントーネの提案に、ファミルは不承不承立ち上がった。
二人は湖沿いの道を、いつもより前後に少し離れて歩いた。
こういう時はふだんなら、たいていファミルが率先して歩き、アントーネがついていく形になるのだが、今日は逆だ。
アントーネは意味もなく、どんどん南東の舗道を進んでいった。
「おい」
とファミルが声をかける。
「そろそろ戻らないか」
居心地悪そうに、彼は言った。
南東の道は、このままずっと行くと高級住宅街に通じている。
そのため先に行けば行くほど、身なりの良い紳士淑女が増え、舗道のわきにも湖を眺めるテラスのついた、洒落たカフェなどが増えてくる。
そんな中を、いかにも労働者然とした二人の子供が歩いているのは周囲の目を引く。
アントーネは言われてようやく、そんなに先まで歩いてきていたことに気付き、「そうだね、戻ろうか」と言った。
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