3.

2/3
前へ
/14ページ
次へ
 二人はもと来た道を戻っていたが、その途中でアントーネは、あるベーカリーの主人が、店の前に建てた黒板に今日のメニューを書き込もうとしているのを見た。  その主人は、チョークでバケットの絵を描こうとしているらしいのだが、何度も描き直しては首をかしげている。  アントーネは立ち止まり、胸がドキドキするのを抑えながら、その主人にかける言葉を考えていた。  ファミルも気付いて立ち止まった。  ファミルはじっと、その黒板を見つめるアントーネを見守っている。 「あの」  アントーネが声をかけると、主人はびっくりしたように振り返った。  汚い子どもが立っていると思ったのだろう。眉をひそめて、「何か用か」と尋ねた。  アントーネは言った。 「それ、そのバスケットの中のパンを描くんでしょう。僕に描かせてもらえませんか」  主人は少し戸惑った顔をしたが、じゃあ、と言って、チョークの入った箱をアントーネに渡した。  そこには黄色や赤や茶色、青などさまざまの色が入っていて、アントーネを驚かせた。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加