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その男性に目をやったとき、アントーネはふと、彼が背にしている噴水の中の、女性の石像が気になった。
その女性像は水瓶を持っており、その水瓶から、まるで手前の男性に注ぐように、滔々と水が流れ出ている。
「できることからやることだ」
アントーネは思わずその言葉を口に出して読んでいた。
水瓶にそう書いてあることに初めて気が付いたのだ。
「何?」
ファミルが訊いた。
「あの水瓶に、そう書いてある」
「ふうん?」
文字なんて、もう忘れてしまった、とファミルは言った。
「うん」
アントーネはうなずいた。彼にも、その先に書かれている言葉は読めなかったからだ。
二人は商店街へ出かけた。
東へ行く道を出れば、商店街は公園からすぐだ。
「なあ」
と、いつも通りパン屋をまっすぐ目指そうとするアントーネに、ファミルが言った。
アントーネが振り向くと、ファミルは、にこっとして顔を紅潮させた。
「画材店があるよ。入ってみないか?」
「え? 無理だってば」
「入ってみるだけなら、俺たちにもできるだろう」
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