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 それはそうだけど、とアントーネは言葉を濁した。 「『できることからやることだ』、なんだろう?」  とファミルが言う。 「ただ、そう書いてあったってだけだよ」  画材店に入れたからと言って、それが何になるのだろう、とアントーネは思った。  買えもしないのに、恥をかくだけだ。悪くしたら、万引きと間違えられるかもしれない。  しかし、ファミルは強引だった。  アントーネが黙っているうちに、さっさと一人で画材店のドアを開けてしまった。  アントーネは、仕方なく彼について画材店に入った。 「たくさんあるなあ」  店内に入ると、ファミルは、周囲もはばからず大声でそんなことを言った。  たしかに狭い店内には、色とりどりの絵具のチューブや、大小の筆がぎっしり並べられており、画用紙の種類だけでもどれだけあるのかわからないくらいだ。  先ほどまでの心配とは打って変わって、内心、アントーネは胸を躍らせていた。  ファミルは勝手に、その中の一本の絵具のチューブを手に取って言った。 「見ろ。このチューブ一本なら、パンをふたつも我慢すれば十分に買えるぞ」  アントーネは計算しようとしてみた。パンひとつの値段は覚えている。  だけど、計算するのは難しかった。  だがファミルはいつも、その程度の計算はすぐにやってしまう。  だから、きっと彼の言うとおりなのだろう。  そうだとすると、自分はずっと勝手に勘違いしていたのだ、とアントーネは思った。  彼はそれまで、絵具がいくらするものかなんて考えてもみなかった。それは贅沢品で、自分には手の届かないものだと思い込んでいたのだ。 「今週は、パン一つずつ少なく買うことにしてさ、これを買おう」  ファミルが言った。 「ファミルは減らすことないよ。関係ないじゃないか」 「そういう言い方はないだろ」  ファミルは心底不満そうな顔をする。
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