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けれど、少しだけその罪悪感を振り払って、自分と家族とファミルと、みんなのためになることが何かを考えた。
アントーネが決めるまで、ファミルは待っていてくれた。
二人は再び、商店街に向かって再び走っていた。
アントーネは慎重に考えて、パン一つと、鉛筆一本、消しゴム一個、それに画用紙を一枚買った。
パンを買ったのは、ちゃんと仕事をするためには、それが必要だと思ったからだし、絵具の前に、鉛筆と紙が必要だろう。
本当は、青色の絵具がとても欲しくて、それで空と湖を描いてみたかったのだけれど、彼は風景画らしい風景画を描いたことがなかったし、下絵を描くには鉛筆が先に必要だった。
ポケットには、小さな銅貨が一枚だけ残った。
「これは、来週、また絵具を買う足しにしよう」
ファミルが言った。
「ちがうよ」
とアントーネは言った。
「二人の貯金にしよう。いつか、仕送りができるほどお金が貯まったら、半分ずつ、それぞれの家に送るんだ」
ファミルは首を傾げた。
「俺はいいよ、おまえのお金じゃないか」
「ちがうよ。二人のだよ」
「いや、おまえのだ。絵具を買うほうがずっといいんだ」
「でも、二人で拾った銅貨じゃないか」
「俺は拾っただけだよ」
「でもファミルがいなかったら、僕は一生チョークを買うこともなかったかもしれないから」
「しつこいやつだなあ」
「君だって」
決着はつかない。
それからまた、いろんなことを話しながら帰った。
来週、何を描く? だとか、文字を習おうよ、だとか、そんな楽しい話を。
見知らぬ人は、別れ際にこう言ったのだ。
「あの男は、いつもおまえたちのことを気にしていたよ。
ほら知っているだろう。いつも全身チョークまみれの男さ。
あいつは教師なんだ。
日曜日になると、毎週、無給でおまえたちみたいな労働児童に文字や計算を教えている」と。
そのチョークだらけの教師に、文字と計算を教えてくれないか頼んでみよう、と二人の意見は一致した。
図画も教えてくれる先生だといいのになあ、などと、アントーネは贅沢なことを考えて、自分で笑ってしまった。
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