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 公園から南東へ、湖沿いにのびる舗道を、二人の少年は散歩していた。  工場から休暇を与えられる日曜日には、決まってそうする。    景観の美しいその道では、たくさんの日曜画家たちが絵を描き、描いた絵を売ったりしている。  その売られている絵を見て歩くのも、アントーネには楽しみのひとつだ。  しかし、ファミルは不満げな顔でいつもこう言う。 「おまえが描いたほうが絶対に上手いんだ」  アントーネは苦笑するしかない。 「無理に決まっているよ。僕は絵筆を持ったことすらないんだから」  たしかにアントーネは故郷にいるころから、「絵だけはうまい」と親にも言われていた。だけどその絵は、土に棒切れで描いた絵のことだ。  貧乏な彼の家では、鉛筆一本、紙一枚さえ貴重で、ろくに手に入らなかった。  家の事情はファミルも似たようなものだ。  だから二人はこうして、故郷から馬車で三日もかかるこの街の工場で働いている。口減らしになるだけでも家計は助かるからだ。  それに工場では宿舎が用意されていて、少なくとも寝る場所には困らない。  十歳でここへ来て二年になる。  学校は途中でやめてしまったが、もともと生家にいるときから、煙突掃除や鉄くず拾いで忙しく、ろくに学校に通ったことはない。  だから学校には未練も感じなかった。 「そうだ。絵具(えのぐ)を買えばいいんだよ」  唐突にファミルが言った。
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