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第三話
六月。
彼女のサークルでは、新歓合宿が行われた。琵琶湖のほとりにある民宿だか安ホテルだかに、週末を利用して一泊二日。
帰ってきたその日の夜、早速、報告の電話があった。
「ただいま!」
「おかえり、雪野さん。楽しかった?」
「もちろん! 朝から晩まで、余計なこと考えずに音楽三昧だもの! 好きなことだけ出来るのって、本当に幸せだわ!」
彼女はそう言っていたが……。
はたして彼女は、純粋に音楽だけを楽しんできたのだろうか。
「今朝はね、食事のテーブルが田辺先輩と一緒だったの。田辺先輩、朝から爽やかな笑顔を振りまいて……」
田辺先輩というのは、雪野さんの話に頻繁に出てくる人だった。
工学部で、学年は二つ上。初めて名前が出てきた時、僕は女性だと思ってしまったが、何度か聞くうちに、自分の誤解に気づいたのだった。
「……だからアキちゃんと二人で『朝イチの先輩、かっこいいね!』って盛り上がったの!」
同学年の友人の名前を出しながら、田辺先輩を褒める雪野さん。
この頃には、さすがの僕にも理解できていた。彼女は彼を好きなのだろう、と。
同時に。
一つの真理を悟ったような気にもなっていた。恋する女の子は、好きな男の人について話す時こそ、最も魅力的に輝くのだ、と。
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