日替わり定食

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日替わり定食

 俺は久しぶりに、昔よく通った定食屋に足を運んだ。  あれから10年ちかい年月が流れていた。  それでも定食屋の主人とおかみさんは、俺の顔を覚えてくれていた。 「おやっ!珍しいねぇ!ちょっと太ったんじゃないか?」  親父さんが声を掛けてくれた。 「ちょっと遠出していたもので。またちょくちょく寄らせてください」  俺は少し照れくさくて、顔を赤らめながら小さくお辞儀した。 「いつでもいらっしゃい。何食べる?」  おかみさんが優しく声を掛けてくれた。 「日替わり定食で」  俺はいつも頼んでいた定食をお願いした。 「あれ!特製唐揚げ・麻婆定食じゃなくていいの?」  おかみさんがケラケラ笑いながら言った。 「ええ。俺はやっぱり庶民ですから」  そう言って、俺は手元にあった地方新聞に手を伸ばした。  店にはあの頃と同じ、どこか油臭いけど、香ばしくて食をそそる、温かい匂いがしていた。
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