前書き

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前書き

夢を見て、吐き気を催すような悪を感じた。 起き抜けに見た窓の外はまだ暗く、そして、心臓が異常な速さで僕の身体に血を巡らせていた。 携帯を見る。朝の4時近い。そんな時間に目を覚ましたのに、僕は二度寝するなどということはできず、代わりにSNSのアプリを開き、ミュートした人間の一覧を確認した。 無駄に意識の高い大学生、アカウントの乗っ取られた友人の旧アカウント、そして、その中にポツンと存在する、あの人の顔。 もう一度夢を思い出す。長く面白い夢だった。僕は、一体何と戦っていたのだろう。何かと戦う冒険小説の主人公みたいな気分だった。もちろん細部まで覚えている訳ではない。ただ自分を急に現実へと戻したあの最後のシーンだけは、寝起きの頭からこびり付いて離れなかった。 携帯を放り投げ、天井を見つめる。鼓動はまたそのスピードを緩めることはせず、ただ、邪悪な想いばかりがそれと比例するかのように身体中を蝕んでいく。 最後の誓い、それを破りそうになって、そうして嫌になって、夢を思い返してもっと嫌になって、僕はいてもたってもいられなくなってこうして書いている。 そのためには読者諸君に僕の一切バイアスのない夢のエピローグと、僕の現実と、そして今までの日々とそれからの日々をここに綴らなくてはならないと思う。外出禁止例の出されたこの異国の地の生活は、案外悪くないなどとたかをくくっていたが、本当は知らず知らずのうちに僕に精神的な負荷をかけていたのだろうと思う。 というよりは、そうであってほしいのだが。 僕は今、頭が非常に混乱している。だからまずは客観的な事実だけを書き留めることで、少しでも冷静さを取り戻そうと思う。支離滅裂な文章であっても、どうか許してほしい。 最後の誓い、僕はこの文を書き終えた暁には彼女のことを一切忘れることにする、などということはできないだろう。だから僕ができることは、少しでも立てた誓いを守り続けることだけだ。 それが僕らにとって、きっと幸せだろうから。
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