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最後の夢
夢自体は何の脈絡もないもので、目まぐるしく変化する状況をスンナリと受け入れることができていた時点で、僕は夢によく馴染んでいたと思う。車を運転してコンビニに突っ込んだかと思えば、次の瞬間エレベータ用の穴を採掘するシーンに移って、最後はソ連兵に追い詰められていたはずなのに気づけばダブルデッカーバスでオーストラリアのアボリジニに会いにいくツアーに参加している。
僕は大抵夢の中でこれが夢だと気づくことはあまりないので、少し楽しい愉快な冒険程度に思っていた。
だがバスの一番後ろの席に腰を下ろした直後、隣に座ったのは、何を隠そうあのミュートリストに入っていた彼女である。
狭い車内の中、僕はこれが夢だと理解していないものだから、何を話せばいいのか分からず、どう反応していいか分からず、ただ窓の外側の景色を見ることしかできなかった。
途中、バスがレトロチックなプールの横を通り過ぎた時、レトロなものが大好きな僕は、「うわぁすげえ」と思わず叫んでしまった。そうしてその言葉を聞いて、彼女は少し笑った。
と思ったら、顔がとても近いところにあって、僕は泣きそうになりながら彼女に聞いた。
「君が何考えているか、僕はいまだに分からないよ」
「私も」
そうして彼女は唇を重ねてきた。
あの日を最後に感じたことのなかったそれは、とても懐かしく、そうしてとても嬉しいものだった。
そしてその嬉しさが、僕を起こした。
これが僕にとっての痛烈な悪の一部始終である。
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