最後の誓い

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最後の誓い

5時の鐘が鳴り響く。この時間だと酔っ払いが大声で歌いながら街を歩いているはずなのだが、外出禁止令のせいでそんなものは何処吹く風といったところだろうか。 さて、僕がこの隠してきた気持ちを知ってしまった以上、僕はこれから何をするべきなのだろうか。 答えは単純明快で、「何もしない」である。 それが何も壊さない最善の策であり、僕ができる唯一の罪滅ぼしである。 だが本当にそうなのだろうか。 沈黙を通して、僕の心は安らぐのだろうか。 最低なことを言っているのは誰よりも良くわかっているし、梨果を裏切りたくない気持ちだって十分ある。 いいや、言い訳などよそう、僕がここでどれだけ理由を並べても、僕が悪であることには変わりはないのだ。 何一つ救われない世界の中で、僕は善人になりたかった。 本当はこれで良かったのかもしれない。本当は何も言わず、明音の連絡先を消してしまえばいいのかもしれない。 彼女の人生にもう僕は必要ないのだろうし、彼女は彼女の人生を謳歌しているのだろう。 だが例えそこに希望などなくても、たとえ、我、死の谷のかげを行こうとも。 僕は、やっぱりどうしようもなく彼女が好きなのだということを、ただ認めざるおえなかった。 最後の誓いを、これ以上干渉しないという誓いをだから、ほんの一瞬だけ、破ろうと思った。それからの日々は、僕にとってあまりにも憂鬱で、あまりにも邪悪だったから。 だが僕にはその勇気も資格もない。人にあまり関心のない僕が、なぜここまで思い入れがあるのかはわからない。もしかしたら8年という歳月の中で、僕を最もよく理解してくれたのが彼女だったからかもしれないし、単純に好きなのかもしれない。 それでも、やはり僕の悪が許されるはずはないし、その悪を進んで告白する勇気もない。 最後の誓いは、彼女との距離を永遠に取り続けること。 そしてそれはあまりにも酷なことであった。 そうして今、その邪な気持ちに気づいてしまった今、クズになりきれなかったクズとなった僕は何をすればいいのだろう。 覚めてきた頭の中で、僕は昔の自分を思い出した。 高校卒業後に別れた後無関心を貫かれて、悔しくて、そうして彼女へした最初の誓いを思い出した。 「必ず振り向かせる、僕の壮大な夢が叶って、君に再び告白する」と。 そんな昔の青臭い誓いなんて、何の役に立つのだろうか。 それが彼女との関係を修復してくれるのだろうか。 僕にはそれがわからない、知っているのは神様くらいだろう。 だけど、そうして涙を流して、それでも土についた膝をあげて、そうして前進する人間達の強さを知っている。 それは善も悪ない世界だ。 僕は悪であった。今もそうだ。 でももし、僕がこの先善の道を進むとして、そうしてたとえ過去の悪が許されることがないとしても、その後悔や懺悔を背負って前に歩けるのだとしたら。 きっと僕のこの誓いは最後の誓いになるだろう。 そうしてその誓いは最初の誓いであっただろう。 だからどうか少年少女達よ、こんな目も当てられないようなクズを、どうか蔑んで欲しい。 蔑んで、どうか自分の心に最後まで信じれる「善」を作って欲しい。 僕はまた、夢を叶える旅に出るだろう。 その時、彼女は振り向いてくれるだろうか。 それは、最後の誓いが達成した時に、知ることになろうだろう。 皆に、ウイルスにやられた世界に、そして僕という悪に、栄えあれ。 そして、僕の善に、幸あれ。
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