親愛なる貴女へ

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親愛なる貴女へ

――拝啓――  私が出兵してから半年が経ちますね。お身体に変わりはありませんか?  私は元気というほど元気ではありませんが、それでもなんとか今日を生きています。  ところで――――  日本(そちら)の空は今日も綺麗ですか?  大陸(こちら)の空は今日も薄汚く、血や鉄、火薬の臭いをはらんだ死の風が吹き荒れています。  伝令から知らされる最前線の様子は一進一退でなかなか戦争が終わる気配はありません。  それなのに無能な指揮官は勲章がいくつもついた、たいそう立派な軍服を身にまとい、椅子にふんぞり返って煙草をプカプカとふかしては、いたずらに突撃命令を繰り返すばかりです。  それ故に最前線では戦力の消耗が著しいと聞きます。  今まで何千、何万の部隊があの丘の上に送られて、いったいどれほどの仲間が散っていったのか皆目見当もつきません。  それなのに丘の頂上はちっとも見えてきません。  明日には私たちの部隊にも出撃命令が下る見通しであることを大佐殿から伺いました。  しかし、本当のことを言えば出撃する意義が見いだせないのです。  ただ突撃して敵の砲火の的になる――これが本当に名誉ある戦死なのでしょうか?  皇国(みくに)の為、陛下の為、ここで命を散らすことが大変すばらしいこと、それこそ一族、いや国の誉としてたたえられることなのでしょうか? おそらく答えは「はい」の一択のみなのでしょうが、私にはとてもそうは思えません。むしろただ単に犬死をしているようにしか思えないのです。  ですが、戦場で散っていった多くの仲間たちの魂や、これから日ノ本で生まれてくる多くの命、そしてなにより貴女を護ることができるのならば、私はこの運命を受け入れる覚悟ができています。  強いて心残りを言うとしたら、あの、幼少の頃に夢を描いた故郷の空を、もう一度貴女と見たかったことくらいです。  もし、私が死んでしまったとしても私は貴女のそばにいます。だからどうか泣かないでください。  こんな私を好きになってくれて本当にありがとうございました。  私は本当に幸せ者です。  それではこの手紙が祖国の貴女のもとに届くことを信じて、このあたりで筆をおくことにします。  どうか、末永くお元気で――。                            ――敬具――
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