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灼熱の脱出
老夫婦から若い元兵士が掘っ立て小屋からでてこない。と聞いたのはやはり灼熱の太陽ガジリリと照る昼間のことだった。
ようするに様子をうかがってほしいということで、男も老夫婦も悲惨な最後を予測している。
男は自分の信用と同じくらいの木の棒を拾って、杖のように使いながら元兵士の小屋へ近づいていった。連日の猛暑だからもし、息絶えていたなら臭って来てもおかしくない距離まで近づいているが、死臭は漂ってこない。
おかしいなと男は思った。若いとはいえあの元兵士は疲弊し絶望しかなかった。帰る場所がないと小声でしゃべる小者だった。
男は掘っ立て小屋の扉をノックもせずに、杖にしている棒で突いて開いて中をうかがった。人の気配はない。そのまま中に入り見回した。
無人だった空っぽのリュックサックが落ちていた。レンガと毛布で組み合わせたベッドはうっすらと砂埃がつもっている。しばらく前にここを立ち去ったようだ。しかしどこまで行けるだろうか。心配ではない。ただそう思っただけだ。おそらくどこかで力尽きているかもしれない。男はそんな気がしている。
リュックサックを拾い上げてホコリをはらって持ち帰ることにした。自分もそろそろ抜け出す時期なのだろうか?
元兵士が消えて数日。男は夜に地下室の缶詰をリュックサックに詰めた。詰めきれなくなった缶詰はいつものペースで食べ続け、ある日いよいよなくなった。
無音の月夜に男はリュックサックをずっしり背負って、公国の首府を目指すことにした。寝静まり、沈黙した街の中を小走りで旧街道を目指して駆け抜ける。そして街道跡にのびている焼け落ちた大木のマタに元兵士が首をくくりつけた痕跡を見た。ウジがわき無残を晒している。
男は思う。この出口なき街に出口を見出す。砲弾痕を乗り越えながら進む。陽が昇り灼熱のジリジリとした時間がはじまる。灼熱地が続く、穏便を放棄して救いを求める。
街道はやがて整備されていない草野の道になった。
進んでいこう答えは向う側にある。
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