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バラックの男
戦争中ロシウ市の市民は大半が避難した。しかし共和国の砲撃は昼夜を問わなかったため、砲撃に巻き込まれた市民も少なくなかった。
また軍の作業に従事させられた市民も多くいた。無論共和国軍にとっては殺すべき相手と認識される。5年戦った結果多くの兵士の命が失われたが、ロシウ市の郊外の塹壕跡は埋葬もままならない遺体が腐敗し、白骨化し見るも無残で悲惨な状態を晒している。
かつての街道は爆撃痕で湖のようになり交通することが不可能になった。
交易を結ぶべき共和国とは断絶が続く。
街の周りは死体の山、廃墟になった街。残された人々の行き場のない絶望はどこへ行くのだろうか?
男はガレキで壁をつくり、廃材を組み合わせた屋根のバラック小屋からジリジリ照りつける太陽をみた。
なんとか今日を生き残った。そういう思いだけ。バラック前でよくわからない鳥の肉と野草を雑に煮込んだスープを作り、そそくさと食べた。
男のバラック小屋のまわりには1~2軒”ご近所さま”がいる。
老夫婦と若い元兵士。老夫婦は逃げるタイミングを失いかろうじて生き残ったといい。元兵士は帰る場所がないといった。
ときおり食料をいっしょに探して行くことがあるが、心を開いているわけでもなく、生きてゆく方法論でしかない。
男には”秘密”がある。一見廃墟のなかのバラック小屋。なかは大人2人が体を伸ばして眠るスペースなのだが、バラック小屋は砲撃の爆風で吹き飛んだ民家の上に立っている。
民家跡には地下室が有り、どうやら退避壕として使われていたらしく、結構な量の食料が備蓄されていた。男は絶望の中に生きる希望の糸を見つけ、様子を見て街を脱出しようと考えていた。公国の首府へいけば、なにかしら次の手立てがあるかもしれない。
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