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名前で呼んで、と何故か念押しされながら寝ることになって桂史朗さんの私室兼寝室に入る。部屋に入ったのはいいけど、どうしたものだろうと戸惑っていると、桂史朗さんが昨日と同じくベッドに腰掛けて手招きしてくる。迷った末、桂史朗さんの前に立って途方に暮れていると、腰を抱かれて手をひかれた。
ぐいっ、と引き寄せられるままに彼の上に覆いかぶさる。
「ははっ、紗衣は可愛いなぁ。」
「鏡を見てください。」
「え、なんで?」
私の下で楽しそうに笑う桂史朗さんに毒気を抜かれた。意識し過ぎても失礼だよね、と彼の横に寝転がる。それに、よくよく考えてみれば生娘、で間違いないがそう呼ばれるには微妙な28歳だし、こんなよくしてくれている桂史朗さんに身を明け渡すのはやぶさかではない。そう考えると、余計に気が緩む。
桂史朗さんの胸元に抱き寄せられるままに、身を任せた。
「ん?紗衣、どうした?」
「何がですか?」
「なんか、……なんでもない。」
「そういえば、なんで桂史朗さんはキスしようとしないんですか?」
身を明け渡すと言えば、キスもそうだ。ファーストキスは過去にお客さんに奪われたけど。ちなみにその客は出禁になった。ともかく、強引だけどよくしてもらっているのは分かるし、彼の期待には応えたいところだけど。それともそういうのは求めていないのだろうか。結婚式でキスしたけど、それで十分だったんだろう。
そう結論付けると、何でもないと口を開きかけて閉口した。正確には、彼の胸元に頭を抱え込まれてて息もままならない状態だからだ。
「ふぐっ……。」
「紗衣これ以上何もいわないで俺の理性を試してるのそれとも無意識なの無意識なんだろうね可愛いけどこれは小悪魔的なむしろ悪魔でしかないしつまり紗衣が可愛いんだけど――。」
「んーっ!」
なんか早口で色々言われたけど、取り敢えず離してほしい。ばんばんと彼の背中を叩いて、解放されるのと同時に大きく深呼吸した。
ふーっ、ふーっ、と呼吸をしていると背中をいたわるようにそっと撫でられた。心配するくらいなら呼吸困難に陥らせるのはやめて欲しい。
「紗衣はキス、嫌じゃないの?」
「なんでですか?夫婦でしょう、キスもセックス、は上手く出来ませんが、構いませんよ。」
「紗衣、紗衣、わかった、俺が悪かったから、とにかく黙って。」
また胸元に抱き込まれたが、今度は手加減してくれるらしい。呼吸ができるのでそっと彼のTシャツを掴んで、すり、と頭を押し付けた。
「紗衣が可愛過ぎてつらい。」
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