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それから、それから。
南蓮夜を弔う会――誰が書いたのかわからないが、入口には大きく墨で丁寧に書いた文字が掲げられていた。お葬式とは少し違うが、少しはみんなも弔う気持ちがあるんだろうか。僕が教室を覗けば、揃いも揃っていかにもな黒服の連中ばかりが揃っている。
南蓮夜が、この学校の屋上から飛び降りて、早十年。
元クラスメートの少年少女たちも、今は全員が立派な大人となっているはずだ。さて、見知った顔はどれくらいいるだろうか。僕はそっと入口の引き戸をガラガラと開けた。さすがに十年も過ぎてば、容貌が大きく変わっていて然り。朝顔第二小学校、六年二組のクラスメートたちは――重苦しい喪服姿であるわりに、随分と明るい表情で談笑していた。
――まあ、弔う会って言っても。あくまで、口実に過ぎないってのもあるんだろうなあ。全員が全員、仲良しだったってわけでもないし。
半分、同窓会気分なんだろう。特に派手な茶髪の女子の声が大きい。僕が入ってきたことにも全く気づいていない。誰なんだろう、と思って名札を見てげんなりする。松井果穂――クラスのアイドル的美少女だった、あの子ではないか。まるで大和撫子もかくやというお淑やかぶりだったのに、何故あのような有様になってしまったのだろう。僕は心底がっかりしてしまう。元より友達が少ない僕がわざわざ此処に来た理由の一つは、昔可愛かったあの子やあの子が現在どうしているのか、それを知りたかったというのもあったというのに。
まだ来ていない者も多いようだ。教室にいるのは、クラスメートの半分くらいだった。誰が出席で誰が欠席か、ざっくり見た感じだと残りはあと数名といったところだろう。僕は主催者が飾ったのであろう黒板や掲示板の懐かしい掲示やメッセージを見ながら、全員が集まるまでぼんやりと時間を潰すことにした。
「南君が死んじゃったの、いじめのせいだったっていうけど本当なの?結局、真相はわかんなかったんだよね?」
果穂の声も大きいが、それ以外の女子の声も相当なものである。背中を向けていても、話す声は容易に聞こえてくるというものだった。盗み聞きしているつもりもないが、そこはそれ、大声で喋っている方が悪いと思って貰うしかない。
「南君が死んじゃってから、果穂ちゃんは親の都合で急に転校しちゃったんだよね。随分印象変わってて、びっくりしちゃった」
「あはは、会う人会う人みんなに言われるわ。あたしもね、それからの日々はね、まーいろいろあってねえ……。実は既にバツがついてるつったら、びっくりする?」
「え、マジ!?」
「マジマジ。金遣い良いし、この男でいっかぁと思った男がほんと使えなくてさあ。空気読めないし、掃除もヘタクソだし、こりゃだめだわって思ったのよね。というか、煙草吸ってるだけで嫌な顔してくる時点でもうダメ、論外」
一体どういう生活してきたんだ、この女は。僕は呆れて思わず振り返ってしまう。小学生時代の、おしとやかな美人のイメージがガラガラと崩れてくる。さっきから妙に部屋が煙草臭いとは思っていたが、まさかこの女の臭いであったとは。
この学校初の、そして唯一の自殺者が出てから十年。普通に卒業した者もいれば、果穂のように土壇場で転校した者もいる。そして卒業してからの進路もまちまちであったはず。地元の公立中学への進学率は比較的高かったと記憶しているが、クラスのみんなはどうだったのだろう。
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