春色の君

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 スマホを通しての声のほうが、実際に聞いた君の声よりも聞き慣れてしまった。穏やかな小鳥のさえずりが聞こえる。うららかな春の陽射しと匂いが脳裏に浮かんだ。 「今日はカレーにしようと思っているんだ」 『そうなのか。どんな?』 「子羊の骨付き肉を仕込んでおいたから、それを入れようと思ってる」 『いいなぁ!うまそう!』 「贅沢品と思うかな」 『たまになんだから奮発したってばちは当たらないだろ。いつもがケチなんだから』 「最近はケチでもなくなったよ」 『そうかぁ? 痩せこけるなよ』  笑いながら「そんな風にはならないよ。倒れたら君に心配かけるもの」と言えば、『そうだなぁ、そっちにすぐ行ってやれないしな』と、はつらつとした笑い声が返ってきた。遊ぶ子らの声、桜がもうすぐ満開だと告げる君。 「ずいぶん暖かくなったんだね」 『暑いくらいだ』  君の周りを春が取り巻いている。春風がマイクにぶつかる音で時々聞こえなくなる君の声を懸命に拾いながら、会話を繋いだ。都合の悪いところは聞こえないふりをしたりする君が、とぼけているのか、本当に聞こえなかったのかは声音一つで分かる。 「最近、高校の卒業式を見かけたよ。あの頃は僕たちも馬鹿をやったね」 『若気の至りってやつだろ。まあ、まだ俺は若いけどあの頃より分別のついた大人にはなったな』 「堤防の上からショートカットして、自転車が曲がるほどの墜落したのが『若気の至り』ね」 『大昔のこと言うなよ、老けるの早くなるぞ』 「ボケるよりはマシさ」 『はは、ジジくせぇ』
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