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他愛ない会話。しかし、君はいつも忙しくて、こんな他愛ない会話もなかなかできない人だった。仕事はもちろんのこと、やりたいことだらけで、君自身も忙しい人だった。昔はもっと喋っていた。僕と君は高校からの同級生で、クラスの委員長と副委員長をおしつけられたのが話すようになったきっかけだった。いつも一緒に遊んだり、勉強したりしていた。部活も君がサッカー部、僕がテニス部で、区画こそ分かれてはいたけれど、お互い見える場所にいた。部活の終わる時間も大体同じだったから、一緒に帰って、たまにどちらかの家にお邪魔して一緒に夕飯を食べたりもした。家に帰ってからでも、チャットやオンラインゲームで繋がっていた。どんなことをするにも、君と一緒が一番心地よくて楽しかった。
「君が出張に行くまでは、一緒にいろいろできてたのになぁ」
『俺が帰ればまたいろいろできるだろ』
「帰ってなんて来ないくせに。そう言って何年そっちにいるんだ」
『まあ、3年くらいか』
「もっと経ったよ」
『そんなもんだろ。刺々しい声出すなよ』
社会人になってからも、一人暮らしを始めた僕のところに君が転がり込んでくることが多かった。親の目のない場所で好きなように遊べるというのは、思った以上に楽しかった。大人になったらゲームなんて興味を無くすかなと思っていたのが正直なところだった。実際は、君と一緒に日が昇るまで肩を並べて熱中して、寝不足でお互い会社に向かった日もあるくらいだ。AIにカーテンを閉め、部屋の電気をつけることを頼むと揺り椅子を揺らす。
『最近、お前のほうはどうなんだよ』
「順風満帆の部類に入るんじゃないかな。孫も今年で成人式だからね」
『めでたいじゃないか。お前の報告はいつもいい報告ばっかりで逆に心配になるよ』
軽い声。言葉とは裏腹に僕のことはまるっきり心配していないことがわかる。昔からそう。君はいつも、僕に何かあっても上手くやっていけるだろうという根拠のない自信を持っている。それは時々プレッシャーなこともあるが、僕の背中をいつだって押してくれていた。
「そうだね、君よりはるかに悲しいことも、嬉しいことも重ねてしまった」
『俺のほうは、任される仕事がどんどん増えて、忙しいけどやりがいがあるくらいしか報告のしようが無いからな。現場じゃ若いほうだからっていつまで馬車馬扱いするんだか』
「君が帰ってこない間に、僕は結婚してしまったし」
『おかげで恋愛もする暇がなかったもんなぁ』
「僕とずっとにいたせいもあると思うけどね」
『あの時はお前とつるんでるのが一番楽しかったんだよ』
「そんな日がまた来ると思ってたんだけどな」
『しゃーねぇだろ、こんな風になるとは思ってなかったんだからさ。でも、いい話があるぞ』
僕は小さく唇を噛んだ。君は、僕の返答を待たずに話す。君を取り巻く春の音も止まない。
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