彼がまだ人間だった頃

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彼がまだ人間だった頃

どこにでもある不幸とも呼べない話。 社長と社長令嬢の、金と権力と規模拡大目当てのお見合い結婚。 跡継ぎを迫る両家祖父母の意思により生まれてしまった俺。 しかし金と権力がすべての両親が俺に関心をもつはずもなく。 それぞれ不倫し、父の相手に子どもができた。 青葉蒼5歳の夏。 俺は「金を払うから誘拐させろ」という奇っ怪な男に誘拐された。 そして親とも呼びたくないが一応の両親は、その申し出を快諾した。 理由はごく簡単。俺の代わりがいるからだ。 父と不倫相手との間の子が俺の代わり。 青葉はスポーツからパーティー、メンズからレディースまで、多数のブランドを展開する日本トップクラスのアパレルグループ。 しかし誘拐されたときに俺は「青葉」を抜け、父が不倫相手との間に作った子が正式な青葉の跡継ぎとなった。 祖父母らは知らない。 両親と使用人だけがこの事実を知っている。 俺は生まれたときから自室に軟禁され、使用人以外誰とも会うことがなかった。 だから血の繋がり?家族の愛情?まったく以て理解できない。 使用人も必要以上に俺とは接触しない。会話もしない。 きっと必要以上に関わるなとかいう命令が出ていたのだろう。 最初こそ跡継ぎの実母でないと自分の権力が弱まるかもしれないと俺を売るのを渋っていた母も、お互いが不倫している事実の方がよほど自分たちの影響力を弱めるからと、 「不倫相手の子を自分たちの子として育てる」 という父の提案に賛成した。 そもそも子育てなんてしない2人だったが、父は愛する相手との子どもなら可愛いのかやたらとかまっているらしい。 母はやはり子育てなんてしないし、ましてや今度は自分と血すら繋がっていない赤の他人だ。 そんな父の不倫相手はといえば、息子とともに離れで何不自由ない贅沢な暮らしをしているとか。 母は父の不倫相手だけが離れにいるのが気に食わないようで、自分の不倫相手も別の離れに呼んで住まわせている。 ここまで堂々と浮気するとは凄いが、それも使用人以外知らないことだ。 俺の弟さんはパーティーやお披露目会があるときだけあの両親の子として連れ出されているらしいが、父と実母から愛され素敵な生活を送っているらしい。 といういらん情報は、俺の保護者を名乗る誘拐犯から聞いた。 黒瀬蒼15歳、春と呼ぶには微妙な時期。 弟さんが通う幼小中高一貫校へ転入する。 ……まあ今更青葉なんてどうでもいいがな。 今の俺は黒瀬蒼。 誘拐犯黒瀬珀の息子、ということになっている。 そして俺は現在、珀に余計な心配をされている。
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