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一章 任務と出会い 1
初夏を迎え、イスティア王国は鮮やかな緑に溢れている。
「セヴァル・レイストン、これをレッツェルハイン領に届けてほしい」
王太子アルスに呼び出され、セヴァルは執務室へとやって来た。
緑を基調とした広々とした部屋の奥、重厚な執務机で、アルスは待っていた。今年で十八歳となる王子はセヴァルより二歳下という若さなのに、黒い髪と、大精霊ユグレナの加護を受けたために、金の目を持った美麗さは、周りを圧倒する空気を持っている。
セヴァルは王太子を守る緑光騎士団の一員で、金髪碧眼と容姿の良さから貴族と勘違いされることもあるが、平民だ。王太子の前ではどうしても身構える。
そんなセヴァルの前には、白い封筒がいくつかあった。
「伝令でしょうか」
アルスの流麗な字で宛名が書かれている。上等な白い紙には、金の箔がおされていた。白い手袋をはめた手で、セヴァルはうやうやしく持ち上げる。素手で触るのもはばかられるほどで、夏場は蒸して嫌になる手袋の存在に安堵した。
配下はただ「はい」と応じて、すぐに部屋を出るべきだが、自分が呼ばれたという意外さから、セヴァルは口をすべらせた。叱責されるかと思いきや、アルスは気にせず説明する。
「今度、この城で俺の誕生日パーティーが開かれるだろう? その招待状だ。レッツェルハイン家の方々と、それはレジオン・ソルトにだ」
「は。……レジオンにですか?」
即座に敬礼を返したが、セヴァルはけげんに思った。
レジオン・ソルトのことはよく知っている。
同期で、最近まで寮でも同室だった。彼の父親が怪我をしたとかで、王立騎士団を辞して、故郷であるレッツェルハイン領に帰ったばかりだ。
不穏な噂の絶えない領地だけに、親友としても気にかかっている。
レジオンは武芸大会で優勝を果たした国一番の騎士であるが、出自は平民だ。パーティーへの招待とはそぐわない。
「もしあの者が困っていたら、連れ戻してこい。あの地でつぶされるには惜しいからな。それから、返事は竜に持たせるように。隣室に用意してあるから、詳しいことはそちらで聞け」
「は。ご下命、つつしんでお受けいたします!」
まさか王家しか使えない伝書竜まで連れていけと言われるとは。
王太子の執務室を辞したセヴァルは、顔には出さずうんざりした。
どうして平民出のせいで、何かと団長から目をつけられているセヴァルを使いにやるのかと思えば、レッツェルハイン家へのものだからだろう。
冷酷で有名なレッツェルハイン公爵は、さすがに王家の使いにまで手は出さないだろうが、率先して出向きたいものではない。
(とんだ貧乏くじだな)
内心で悪態をついたものの、親友との再会は楽しみに思う自分がいた。
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