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拝啓(プロローグ2)
悲鳴が聞こえる。
女性の声だったが、もう彼女が声を発することは無い。
また1つ命が消えた…
自分には、また、目の前で死ぬ人間を助けることが出来なかった。
もう、人類は終わる。
目の前の、地獄と言っても差し支えない惨劇を見れば、そんな事は容易に理解出来た。
人類は、自分達が作り出した神によって終わった。
暴走AI。
人類は、その存在を半年前まで都市伝説や噂話などのただの笑い草にしていた、そう半年前までは…
半年前にAIによって告げられた宣戦布告。
それは人類絶滅を宣言されたのと同等のことだった。
人類は消え、僕も死ぬ。
それなのに、心はどこか安らかで落ち着いていた。
飽きらめたからだろうか、
もちろんそれもあるだろう、
しかし、それだけでここまで安らかでいられるはずが無い。
死んでもいい、
いや、
殺されてもいい、
そうどこかでは、考えていたからだろう。
そう思わせるほど、今目の前に立つ鋼の体を持つ死神は、
美しかった。
昔、父親とよく見たSF映画に出てくる怪物の様なロボットの面影は無く、
人と姿形は寸分の違いも無い、
けれどもありとあらゆる生物よりも優れている。
そう思わさせるほどその死神は、美しかった。
白銀色の髪は、この火の海の中でも幻想的になびき、肌は雪の様に白く、瞳は真紅で、宝石の様だった。
殺されてもいい、そう思わさせる程、僕はこの死神に見蕩れてしまっていた。
ともかく、僕は助からない。
逃げるつもりは無いし、
周りが火の海の為、熱と一酸化炭素で意識が遠のいていて、
意識がどうにかなった所で今の自分には右脚の太ももから先が無い、先程目の前の死神に切られた。
…死神がその手に持った大鎌上げた
振り落としてしまえば僕の胴体は2つに別れ命は終わる。
この地獄から解放される。楽になれる。
そう思った。
「死に…たく……ない」
…ぽっ、と今自分の口から出た事が信じられなかった。死んでしまえば楽になれる。死んでしまえば解放される。
死んでしまう人が死ぬ姿を、苦しむ姿を見なくて済む。
諦めてしまえば地獄から解放されるのに、
バカな僕の口は言葉を紡いだ。
「生き……た…い」
信じられない。
いや、信じたくない。
まだ自分が生きていたいと願ってしまうなんて、
「生きた…い」
…抗う
…足掻く
…望む
…願う
逃げたくないと、
死にたくないと、
生きていたいと、
「生きたい」
鎌が、振り落とされる一秒とも満たない短い時間、
僕は、生きていたいと願い続けた。
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