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あの日、美沙はいつものように放課後の教室で黄昏ていた。特にする事がない日、教室で風に当たるのは絶好の暇つぶしだ。桜を纏った風が心地よい。春の終わりの匂いが私を包む。机に頬ずえを尽き目を閉じる。
「ミサ?」
「ふぁ!?」
不意に声をかけられ、変な声を出してしまう。それを見た彼女がクスッと笑う。艶やかな絹のような黒髪。陶器のように白い肌。セラルだ。
「セラル…さん」
「セラでいいよ」
「…セラ」
セラはニッコリと微笑み、グッと親指を突き出す。グーサインは全宇宙共通なのか!そう考えたら何だかおかしくって、ふふっと笑いながら彼女に倣う。
「ミサは毎日こうしてるの?」
「うん。ただの暇つぶし。こんな田舎、放課後はこれくらいしか楽しみがないんだよ」
思わず愚痴ってしまう。
「セラはどうせ地球に来たなら都会に行けば良かったのに。タワーとかショップとかあって楽しいよ」
それを聞いたセラはチッチッと指を振る。この動作も全宇宙共通なのか。
「ただの暇つぶし?本当に?」
「……」
「風に吹かれてるミサ、とっても幸せそうに見えるよ」
私の髪にいつの間にか付いていた桜の葉をすっと摘み、彼女はそれを愛おしげに太陽に透かす。夕日で紅く染まる葉。キラキラと太陽にかざした後、それを大事そうに手で包み、ポケットへしまう。それを見て美沙は思わず声をかける。
「あ、それちょっと貸して」
「ん?これ?」
彼女はきょとんとして手の内の葉を差し出す。美沙はそれを受け取りティッシュで包んだ後、机の中にあった英和辞典に挟み込む。
「何それ、おまじない?」意外にも興味津々のセラ。どうやら惑星Uにはない文化らしい。「これは押し花。こうしたら植物を綺麗に取っておけるんだよ」そう返すと、不思議そうに辞典を開いたり閉じたして葉を眺める。あんまり開いてばかりだと完成しなくなるかもよ?と少し意地悪を言うと、この世の終わりのような顔をしてぱっと手を引っ込めた。あまりに素直すぎて思わず吹き出す。
「他の花でも出来る?」
「もちろん」
「あの花を持って帰りたい。ええっと…サクラだっけ」
セラは窓の外の木を指さす。日本人が誇る桜の美しさは異星人をも魅力するらしい。
「そうそう桜。もうすぐ終わるから、早めに拾った方がいいかも」
「え」
セラが物凄い速さで走り出した。だだだと上履きのまま校庭に走り出し、あっという間に桜の下に着く。そしてにこにこしながらこちらにブンブン手を振る。その様子に呆れてケラケラと笑ってしまう。美沙も手を振って、愉快な友達の元へ駆け出した。
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