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その日から、セラとはよく話すようになった。
セラは毎朝道端で花を拾ってきた。ミサ!これも押し花にしよう!そう言って手に抱えた草花を見せてくる。それらは大抵そこらに生えている野草である。折角作るならもっとカラフルな花にしたら?と言うが、これがいいの、と譲らない。彼女の英和辞典はやがて押し花でいっぱいになった。もはや植物図鑑だねぇ…と感心する美沙。自慢げに胸を張るセラ。
晴れた日の放課後は、教室を飛び出して山へ向かう。学校の裏の小高い丘のような所である。そこには色んな植物があって、材料集めにはうってつけなのだ。普段は上品な顔に似合わず大口を開けてケラケラと笑っている癖に、この時だけは真剣だ。また、むやみにむしらないのが信条らしく、なるべく落ちている物を拾っていた。制服が汚れるのも厭わず、芝生に這いつくばって拾い集めている。止むを得ず摘み取る時はお通夜のような深刻な表情を見せる。まあその植物は美沙がいつも庭でブチブチ抜いている雑草だったりするのだか…。自然を愛する、とはこういう事なんだろうな、と一人納得する。
そうしてそれが終わると、丘の上で暗くなるまで語り合った。山の上からは星がよく見える。あれが惑星U!セラが空を指さす。え、どれ?あの赤いの?違う違う、その2つ右!じゃあこれ?うーん…違うかも。セラも分かってないじゃん!
そんな事を話しながら山を降りる。星をこんなにもじっくり見たのは小学生以来だ。そういえば押し花なんて幼稚園から作ってなかったなぁ…。友達とこんなに笑ったのも…。
ふと気になって聞いた事がある。
「惑星Uは恋しくない?」
暫く真面目な顔で考えた後、セラがぽそっと呟く。
「ちょっとだけ。家族が恋しい」
高校生の少女が一人で異星に来たのだ。心細いに決まっている。
「でも、でもね」
彼女が言葉を続ける。
「もうすぐここを出る、って事の方が寂しい。惑星Uを出る時は『またね』だったけど、ここを出る時は『さよなら』になると思うから」
確実に別れの日は近づいてくる。
1日1日と友情が深まるのと同じスピードで別れも近づいてくる。
明るい口調だったが、声が少し震えていた。暗くて表情は分からない。
私はなんて言えばいいか分からなくて、黙ってそれを聞いていた。
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