必殺、不思議な踊り

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必殺、不思議な踊り

(これ、うまくいくのかな)  私はこっくりこっくりしている連絡通路の見張りいちごの前に立った。そしてまじまじと見つめる。 『あの変な動きがやつらを惑わすの。ほら、トンボが目を回すのと同じ原理で』  愛梨寿はさっきそう説明してくれたが、その後の言葉がまだ頭を離れない。 『もし惑わされなかったら?』 『うーん、だめでしょうね』 『だめって?』 『食べられるってこと』  そんな、と思ったが他にはもう方法がない。今は愛梨寿を信じるしかないのだ。  私は作戦通り、こっくりしているいちごお化けをトントンと突っついた。  それから、はっとしたお化けがゆっくりと私を見た、そして立ち上がる。  さあ、今だ。見せつけてやる、毎晩練習した神聖な儀式、オタ芸の中でも最も知名度の高い技「ロマンス」。両手をUの字に振りまくるあれだ。  私は踊った。脇目もふらず、力の限り。一度始まればもう体が勝手に動き出す。このまま食べられても悔いはない、そう思えるほど全力を出し切った。  はあ、はあ。ある程度踊り終えてから、ふといちごお化けを見た。するとまだおばけはじっとこちらを見ていた。そしてゆっくりこちらに寄ってくる。 (くそっ! だめだったか……このままでは食べられてしまう)  そう思って目をつぶろうとした次の瞬間だった。  お化けはそのまま前のめりに、バタン、と倒れた。愛梨寿が表情を変えずに、さっと私の横につく。 「やったね、作戦成功よ。やっぱりあの変な踊りは効果抜群ね」 「変な踊りじゃないよ……『ロマンス』なんだけど」  そんな私のつぶやきはもう愛梨寿には届いていなかった。もう彼女は奥のフロアを覗き込んでいる。遅れまいと私も後を追いかけた。 「やっと半分まできた。ゴールまでは後少し、抜かずに行くよ!」  前半のフロアと同様、私たちは息を止めて、目的地である空調機器を目指した。このフロアにもたくさんのいちごおばけが徘徊していたが、愛梨寿は迷うことなく最短距離を選択し、すっ、すっ、と進んで行った。それを必死に追いかける私。  難なくフロアを通り抜け、目的の空調機器までたどり着いた。 「よし、ここまで来れば大丈夫。後はさっさと元の世界に帰るだけ」  良かった、これで助かる。いちご狩に来たのにいちごに狩られるという理不尽な世界からおさらば出来る、そう思って地面にへばりつく私に愛梨寿が手を差し出してきた。私は引き上げてくれるのかと思って、にっこり笑顔で手を出すと、その手を思いっきり引っ叩かれた。 「痛っ! な、なんだよ」 「違う! ほら、賢者の石出して!」 「賢者の……石?」 「さっき渡したでしょ? はいって」  はいって……まさかあの、ハイ、ハイ、って渡してきたあのそこらに落ちたそうな石のことか? 「いや、どこかにやっちゃったよ」 「はあ? もうなんでそんなことすんのよ、あんな大事なもの」 「大事……なのか?」 「そうよ、あれは元の世界で心を維持する為に必要な石なの。あれが無いと植物人間みたいになっちゃう」 「植物人間? そんな……何とかならないんですか?」  愛梨寿はポケットから自分の石を取り出した。 「ならない。植物人間として元の世界に戻るか、それとも」  愛梨寿はにんげん園を見た。 「ここで餌になるか」  遠くでぶらぶらした無気力な人間をパクリとしているいちごお化けが見えた。自分もあんな風になるのか。 「どこに落としたか分かる?」 「ああ、大体は」 「戻ろう」 「あのお化け達の中にか?」 「じゃあどうすんの? 餌になる? 私だって元の世界に帰ったら育ててもらわなきゃいけないんだから、父親が植物人間じゃ困るわさ」  智慧の実ってS成分はどんだけ入ってるんだろうか。それともいずれ愛梨寿はこんな娘に成長するのか? そもそもその賢者の石を手に入れない限りはそれを確認する事すらままならない。  私はもう一度、恐怖渦巻くにんげん園を見つめ、唾をごくりと飲み込んだ。
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