エピソード2 元姫、魔法について学ぶ。

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「まあ五体満足に帰ってこれたから、エドガーは減給はなしにしてやんよォ」 それを聞いたお団子頭のメイドが、情けない声をあげた。 「それって私たちは減給ってことですかぁ?」 「あたりめーだ。今回はたまたま運よく助かったものの、何かあってからじゃあ遅いんだよォ。テメーの持ち場くらい、テメーで管理しやがれってんだァ。アンも連帯責任で減給だ」 泣きぼくろが印象的なメイドは、肩を落としながらしおらしく言った。 「わかりました。旦那様、以後このようなことのないよう、しっかり目を光らせておきますわ」 「頼んだぞ、アン」 リーゼンベルクはアンに釘を指すように言った。泣きぼくろが印象的なメイドと視線を交わすリーゼンベルク。 「アンたちをあまり怒らないで、パパ。 わたしが一人で森に言ったのが悪かったのよ」 リーゼンベルクをまっすぐに見て言うルクソニアに、リーゼンベルクが返した。 「そうだなァ。どうして約束を破ったのか、今ここで聞こうかァ、ルクソニア」 リーゼンベルクが目を細めて、値踏みするようにルクソニアを見る。 ルクソニアは下を向き、肩を落として言った。 「森の先を見に行きたかったのよ。 魔力量が低いと、奴隷になるって本で読んだから、確認しにいきたかったの。 それが本当なら、わたし、奴隷になってたかもしれないでしょう?」 リーゼンベルクはため息をひとつつくと、言った。 「俺の娘は、あとにも先にもお前だけだ。 奴隷なんかにゃ、させねぇよォ」 ルクソニアはバッと顔を上げ、リーゼンベルクを涙目で見た。 「そうやってわたしを庇ってきたんじゃないの? 本当はダメなことをしてたんじゃないの?」 ポロポロと涙を流すルクソニア。 「奴隷に落とすかどうかは家が決める。 貴族で魔力量が微々たるやつも少しばかりだがいるさぁな。 ようは人目を気にして外に出すか、逆に大切に思って内に囲うかの差だァ。 うちは後者を取ったまでの事よ」 ニヤリと笑うリーゼンベルク。 「……パパが人と会いたがらないのは、わたしのせいなんじゃないの?」 ルクソニアはナプキンでこぼれる涙を拭き取った。 「ふっ。そりゃあ貴族社会がかたっくるしいから、俺が面倒で逃げ回ってるだけさね」 「わたしのせいじゃ……ないの?」 「面倒癖ェ事が嫌なだけさねェ。 お前も、としを取ってきたらわかるさァ」 「もう、パパ。 そんなことをいってると、またママに叱られるわよ?」 ルクソニアが泣き笑いした。 「そういえば奥方がいませんが、今どこに……?」 ジュドーが聞くと、リーゼンベルクがクックッと笑いながら答えた。 「今アイツァ、この国の貴族らに会いに、家を出て各地を飛び回ってるんだよ。人好きでなァ。各貴族の窓口をアイツがやってるんだ」 「社交的な奥方なんですね」 と、ジュドーが愛想笑いを返す。 「元々貴族の出だからなァ。 腹の読みあいが得意なんだよ、アイツァ」 言って、手元にある水をあおるリーゼンベルク。 「俺は元々庶民の出で、戦の腕を買われて貴族階級に成り上がったもんで、そういうのはてんでダメですね。 うちの大将には早く慣れろと言われますが」 「お前も逃げ回ってる口かい」 「ええ、まあ。」 「互いに苦労するなァ」 リーゼンベルクがニヤリと笑い、スープを飲んだ。
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