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「まあ五体満足に帰ってこれたから、エドガーは減給はなしにしてやんよォ」
それを聞いたお団子頭のメイドが、情けない声をあげた。
「それって私たちは減給ってことですかぁ?」
「あたりめーだ。今回はたまたま運よく助かったものの、何かあってからじゃあ遅いんだよォ。テメーの持ち場くらい、テメーで管理しやがれってんだァ。アンも連帯責任で減給だ」
泣きぼくろが印象的なメイドは、肩を落としながらしおらしく言った。
「わかりました。旦那様、以後このようなことのないよう、しっかり目を光らせておきますわ」
「頼んだぞ、アン」
リーゼンベルクはアンに釘を指すように言った。泣きぼくろが印象的なメイドと視線を交わすリーゼンベルク。
「アンたちをあまり怒らないで、パパ。
わたしが一人で森に言ったのが悪かったのよ」
リーゼンベルクをまっすぐに見て言うルクソニアに、リーゼンベルクが返した。
「そうだなァ。どうして約束を破ったのか、今ここで聞こうかァ、ルクソニア」
リーゼンベルクが目を細めて、値踏みするようにルクソニアを見る。
ルクソニアは下を向き、肩を落として言った。
「森の先を見に行きたかったのよ。
魔力量が低いと、奴隷になるって本で読んだから、確認しにいきたかったの。
それが本当なら、わたし、奴隷になってたかもしれないでしょう?」
リーゼンベルクはため息をひとつつくと、言った。
「俺の娘は、あとにも先にもお前だけだ。
奴隷なんかにゃ、させねぇよォ」
ルクソニアはバッと顔を上げ、リーゼンベルクを涙目で見た。
「そうやってわたしを庇ってきたんじゃないの?
本当はダメなことをしてたんじゃないの?」
ポロポロと涙を流すルクソニア。
「奴隷に落とすかどうかは家が決める。
貴族で魔力量が微々たるやつも少しばかりだがいるさぁな。
ようは人目を気にして外に出すか、逆に大切に思って内に囲うかの差だァ。
うちは後者を取ったまでの事よ」
ニヤリと笑うリーゼンベルク。
「……パパが人と会いたがらないのは、わたしのせいなんじゃないの?」
ルクソニアはナプキンでこぼれる涙を拭き取った。
「ふっ。そりゃあ貴族社会がかたっくるしいから、俺が面倒で逃げ回ってるだけさね」
「わたしのせいじゃ……ないの?」
「面倒癖ェ事が嫌なだけさねェ。
お前も、としを取ってきたらわかるさァ」
「もう、パパ。
そんなことをいってると、またママに叱られるわよ?」
ルクソニアが泣き笑いした。
「そういえば奥方がいませんが、今どこに……?」
ジュドーが聞くと、リーゼンベルクがクックッと笑いながら答えた。
「今アイツァ、この国の貴族らに会いに、家を出て各地を飛び回ってるんだよ。人好きでなァ。各貴族の窓口をアイツがやってるんだ」
「社交的な奥方なんですね」
と、ジュドーが愛想笑いを返す。
「元々貴族の出だからなァ。
腹の読みあいが得意なんだよ、アイツァ」
言って、手元にある水をあおるリーゼンベルク。
「俺は元々庶民の出で、戦の腕を買われて貴族階級に成り上がったもんで、そういうのはてんでダメですね。
うちの大将には早く慣れろと言われますが」
「お前も逃げ回ってる口かい」
「ええ、まあ。」
「互いに苦労するなァ」
リーゼンベルクがニヤリと笑い、スープを飲んだ。
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