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「天使の羽根を切り落としたの?」
エドガーは頷いた。
「国民を怖がらせないためもあったんだと思うっす。
青の王子にも立派な羽根が生えていたみたいっすけど、それも生まれてすぐに削ぎ落とされてるし、獣人の国と戦争をする土壌は当時から水面下ではあったんじゃないっすかね」
「だろうな。青の妃がなくなってからは一転して戦争をする流れになったし、元々差別的な空気があったのかも知れねぇな」
と、エドガーに同意するジュドー。
「そんな……。青のお妃さまが可哀想なのよ。黄のお妃さまのせいで処刑されただけでも可哀想なのに」
ナプキンで涙をぬぐうルクソニア。
「お嬢様。青の妃が黄の妃のせいで処刑されたって、どうしてわかるんっすか?」
「ヨドがそう言ってたのよ」
「またヨドさんっすか」
エドガーが深いため息をつく。
ジュドーが言った。
「ご令嬢。青の妃が処刑された件に関しては、色々と不透明な所があって、王宮内でもタブー視されている話題なんだ。軽々しく黄の妃のせいなんて言っちゃあいけねぇ。首が飛ぶぜ?」
ルクソニアは顔を真っ青にして叫んだ。
「わたし、首を飛ばされちゃうの!?」
真剣な顔でジュドーは言った。
「それくらい、今、黄の妃の影響力が強いってことだ。ヨド殿も子供に、軽々しくそういったことを話すのはよした方がいい。人の口に戸は立てられないんだからな。子供ならなおさらだ」
ルクソニアはシュンとして言う。
「ヨドが言ったことが本当だとしても言ってはいけないことなの?」
エドガーが言った。
「今の時勢、それはタブーなんっすよ、お嬢様。青の妃が処刑されたことで全てが終わったことにされて、結果的に真実がわからなくなったとしても、もうほじくりかえしちゃいけない事なんっすよ。それぐらい今、この国では黄の妃の権力が大きくなってるんす」
ルクソニアはエドガーをまっすぐに見上げて言った。
「権力が大きいからって、真実を曲げていい事なんてないわ。黄のお妃さまは罰を受けるべきよ!」
「そう単純に片付く話じゃないからタブー視されてるんすよ」
ルクソニアがキョトンとした顔で、エドガーに聞いた。
「どういう事?」
「そんだけ今行われている戦争が消耗戦になってるってことっす。黄の妃に、調停役をしてほしいって声が日に日に高まってるんすよ。だからこそ、あえて目をつむらなければならないこともあると、そういうことです、お嬢様」
ルクソニアはぷくっと頬を膨らませてそっぽを向いた。
「そんなの納得いかないわ!
人ひとり亡くなって、その子供の人生も狂ってしまったのよ?
なのにそれに目をつむれだなんて……悲しすぎるわ」
「じゃあご令嬢。逆に聞くが、黄の妃がはめた証拠ってのはあるのか?
ヨド殿の証言だけだと不十分だぞ」
ルクソニアは言葉をつまらせた。
そこへヨドが助け船を出す。
「証拠はあった。だが黄の妃に先回りされて、揉み消されてしまった。
当時は黄の妃の故郷エリーゼと戦争をするかしないかの瀬戸際で、国も黄の妃を守ったんだ。
その結果、皮肉にも青の妃の故郷シュトーレンとの戦争を引き起こしてしまったがな」
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