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ルクソニアは眉をハの字にして言った。
「それが事実なら、青のお妃さまが可哀想なのよ。平和を望んでいたのに、戦争になってしまって……悲しすぎるもの」
シュンとうつむくルクソニアに、エドガーが言った。
「それが戦争っすよ。はじめからしたくてしてるんじゃないっす。そうならざるを得なかったから、するはめになったものっすよ」
そこにジュドーが続いた。
「そしてすぐにはやめられないのが戦争だ。ご令嬢、気持ちはわかるが綺麗事だけでは戦争は終わらないんだぜ?」
ルクソニアは顔を上げ、リーゼンベルクをまっすぐに見ていった。
「それでもやっぱり戦争は嫌!
ねえ、パパ。お願いよ。つくなら青の陣営にしてほしいの。青の王子さまは青のお妃さまの意思をついで、戦争のない世界を作ろうとしてるって、ヨドから聞いたわ。わたしも戦争をなくしたいの。だからつくなら青の陣営にしてほしいのよ」
リーゼンベルクは言った。
「それは今ここで決めることじゃあねぇな。ルクソニア、事を急ぐとろくなことにはならねぇ。じっくり見極めてから決めねぇと、後から後悔する羽目になる。お前さんだって、それくらいの事はわかる年頃だろう」
「そうかもしれないわ。でも……」
リーゼンベルクは目を細めてルクソニアを見た。
「何を焦ってる」
「焦ってないわ。ただ、戦争が嫌いなだけよ」
リーゼンベルクは水を一口飲むと言った。
「青の陣営についたとて、戦争しなけりゃならない時は来るかも知れねェ。そのときお前さんはどうする?
奇跡なんてのは2度も起きやしねぇぞ」
ルクソニアはポロポロと涙を流しながら、リーゼンベルクに聞いた。
「じゃあどうすれば戦争はなくなるの?
はじめから無理だって言ってたら、ずっと戦争をし続けることにならないの?」
リーゼンベルクは顔をしかめて言った。
「イテェとこ突くな……」
ぼやくリーゼンヘルクにエドガーが突っ込んだ。
「旦那さま、5歳児に競り負けないでほしいっす」
「うるせぇよォ。
あいにく俺はその問いに対する答えを持ち合わせてねぇんだよ。
エドガー、お前ならどう答える?」
ちらりとエドガーに視線をやりながら聞く、リーゼンヘルク。
「ずっとは戦争にならないっすよ、残念ながら。どちらかがじり貧になって負けるまで続けるのが戦争っすから。
ごく稀に利害が一致して停戦したり、平和的に終戦したりすることもあるかもしれないっすけど、基本は削り合いっすよ、ゴリゴリゴリゴリとね。
だからいずれか戦争は終わるっす。
どちらかの負けという形で。
なので俺らが今できることは、出来るだけ自国が負けない方針を持ってる方へつくってことっすね。それを見極めるには、それなりに時間が必要ってことっす」
ルクソニアがエドガーを見て聞いた。
「それって青の陣営につく可能性もあるってこと?」
「場合によっては、っすね。それは」
ルクソニアは黙ってうつむくと、ナプキンで涙をぬぐった。
エドガーがルクソニアの肩を優しく撫でながら言った。
「ちゃんと考えるっすよ、旦那さまと二人で、ちゃんと納得できるような道を選ぶっすから。そんなに不安がらないでほしいっす」
「信じてるわ、パパ、エドガー。
ちゃんと選んでくれるって信じる」
「それでこそお嬢様っす」
そこへジュドーが口を挟んだ。
「俺たちだって、別に好き好んで戦争をしたい訳じゃあない。ただ、負けないために動いてるだけだ。
ヨド殿からどう聞いてるかはわからねぇが、いま身を削ってこの国を守ってるのはうちの大将だってことを忘れないでほしい」
ルクソニアは静かに頷いた。
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