エピソード1 元姫、森でイケオジと出会う。

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「ねえ、ヨド。 ヨドは色々な場所を旅してきたのでしょう? 森の外のお話、ぜひ聞かせて!」 興味津々に目を輝かせながら、ルクソニアは聞いた。ヨドは無邪気なルクソニアの様子に笑みをこぼす。 「私が話せる範囲の事でよければ、喜んで。 あなたは、何について知りたい?」 ルクソニアは少し考えた後、満面の笑みでヨドに言った。 「わたしと同じくらいの子供が、森の外でどんな生活をしているか、知りたいわ。 お城には子供がいないから、わたし、同年代の子供とお話ししたことがないの。 だからとーっても、気になるわ!」 ルクソニアは身をのりだし、期待に満ち溢れたきらめく瞳でヨドをみた。 ヨドは少し困ったように微笑むと、ルクソニアに質問をした。 「ルクソニア嬢。 あなたは、どんな子供の話が聞きたいのだろうか。 子供とひとくくりに言っても、色々な立場の子供がいる。 あなたと同じ、貴族の子供。 街で暮らす、平民の子供。 魔法が使えず、奴隷として働く子供。 戦争で親を亡くして、生計を立てるために働く子供。 この国には、実に様々な立場の子供がいて、それぞれが懸命に今を生きている。 あなたが聞きたいのは、どんな子供の話だろうか」 ヨドの思いがけない質問に、ルクソニアは言葉を失った。なにも知らないと言うことは、こんなにも恥ずべき行為なのだと、身をもって実感してしまう。ルクソニアは顔に熱が集まるのを感じながら、スカートをぎゅっと握りしめた。何を聞けばいいのか、何から聞けばいいのか悩んだ後、ゆっくり言葉を選ぶようにして話始めた。 「……ごめんなさい、ヨド。 わたし、本当にこの国のことを知らないんだと、いま思い知ったわ。 安易に尋ねてしまったことを、許してほしいの。わたし……自分の国が戦争をしているなんて、思いもつかなかったのよ」 今にも泣き出しそうなルクソニアの頭を、ヨドは優しく撫でた。 「ここは戦禍から遠い場所。 あなたが知らなくても、無理はない」 「でも……自分の国の話よ。知っておくべきだわ」 ルクソニアは、震える唇でヨドに聞いた。 「ねえ、ヨド。 戦争はまだ……続いているの?」 ルクソニアは祈るような気持ちで、ヨドをみた。ヨドは少し悲しげな微笑みを、ルクソニアに向ける。 「残念ながら、戦争はまだ続いているよ。 そういった意味では、今の国の状況はとても切迫していると言えるだろう。いつこの国が戦場になってもおかしくない状況だからね。 ギリギリで持ちこたえてはいるけれど、今後どう転ぶかは、私にもわからない」 ルクソニアは、泣かないように、ぎゅっと唇を強くかんだ。 「戦争」という言葉は、本を読んで知ってはいた。しかしそれがとても身近に起こっていることだとは、思いもしなかったのだ。
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