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「黄の……王子さま」
ルクソニアは確かめるようにぽつりと呟くと、上目使いでヨドを見た。
「その王子さまは、優しい人?」
ヨドはふわりと笑った。
「女性には、とても優しい方だ」
ルクソニアの頭に、再び疑問符が浮かんだ。
「それって、男の人には厳しいということ?」
ヨドは静かに、首を横に振った。
「女性以外の事柄に全く関心がない、という意味だよ。ルクソニア嬢」
ルクソニアは、キョトンとした顔でヨドを見た。ぽかんとしているルクソニアに、ヨドは微笑みながら追い討ちをかける。
「女性にしか興味がない、といった方がわかりやすいだろうか」
ルクソニアは、眉間にシワを寄せた。
「それは……とてもナンパだということ?」
ヨドは大きく頷いた。
「残念ながら、とても女性好きだということだ、ルクソニア嬢」
ルクソニアは再び、衝撃を受けた。
「しかもただの女性好きではない。
自身が住まう黄の宮殿で侍女らの尻を追いかけ回し、総辞職させるに至ったほどの無類の女性好きだ。それ以降、黄の宮殿に女性が出入りできなくなった」
ルクソニアは頭を抱えた。
「他にも、やるべきことを投げ出して街へと繰り出し、派手に酒盛りをしたり、娼館に入り浸ったりと、とにかく目に余る問題行動を多々起こしている。
ついたあだ名が、『バカ王子』」
ルクソニアはごくりと唾を飲み込み、真剣な眼差しで言った。
「バカ……王子……!」
「そう、バカ王子だ。
虹の王が、王族としての自覚をつけさせるために、何度か強制的に戦場へ送ったほどだ。あまり使い物にはならなかったようだが」
ルクソニアは目をぱちぱちさせて聞いた。
「どういうこと?」
「彼はこの国では珍しい治癒魔法の使い手で、戦場でも活躍を期待されていた。
しかし彼は血を見るのが苦手だった。
戦場での惨事を目の当たりにし、ガタガタ震えるだけで役に立たなかったと聞く。
黄の王子は極力血を見ないようにするために、出来るだけ離れて魔法をかけるようになり、その結果として広範囲に治癒魔法をかけられるようになったらしい」
ヨドの言葉を聞き、ルクソニアはパアッと笑顔になった。
「それは素敵ね!
たくさんの人を助けられるわ!」
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