エピソード1 元姫、森でイケオジと出会う。

29/87
前へ
/214ページ
次へ
「それって、田舎で前向きに頑張っているってこと? とても素敵なことだわ!」 満面の笑顔でルクソニアは言った。 「前向き……というと語弊(ごへい)はあるが、青の王子が虎視眈々と、未来に向けて準備をしてきたのは確かだ」 それを聞き、ルクソニアは眉間にシワを寄せて不満げに言った。 「……なんだか含みのある言い方をするのね、ヨド」 ぷくーっと頬を膨らませて、ジーっと物言いたげにヨドを見るルクソニア。ヨドは少し困ったように微笑んだ。 「ルクソニア嬢。 夢を見ているところ申し訳ないが、彼は3人いる王子の中でも抜群に性格が悪い。 一部の人間が彼を救世主だと崇めてはいるが、それがとんでもない誤解であることを、私はよく知っている」 ルクソニアはキョトンとした顔でヨドを見た。 「どういうこと?」 「彼は自身の陣営に、この国では卑しい身分とされている無能力者や獣人、奴隷の中から有能な人材を拾い上げ、積極的に起用をしている。それは人間らしい生活を奪われ、隷属(れいぞく)するしかなかった彼らにとって、願ってもない奇跡ともいえる行いだ。 しかし実際のところは、悪評のせいで人が集まらず苦肉の策として起用したに過ぎない」 ルクソニアは目をパチパチした後、少しすねた。 「たとえ事実がそうだったとしても、実際に感謝している人がいるんでしょう? なら、結果オーライじゃないかしら」 ヨドは儚げに微笑むと、ルクソニアを諭すように言った。 「ルクソニア嬢。 毎回無理難題を突きつけては、部下を酷使するような人間でも、同じことが言えるだろうか」 「えっ?」 「労働環境としては、青の陣営は最悪だといえる。人手がないのはもちろんだが、労働環境を悪化させている一番の原因は、魔法が使えないのに魔法が使える者と同じだけの成果を、青の王子が部下に求めるからだ。 かくいう私も、長旅の果てに森を歩かされた挙げ句、事前連絡なしであなたのお父上と会い、交渉しなければならない。 ……我々の苦労を察してくれるだろうか、ルクソニア嬢」 ルクソニアはぽかんとした顔で、ヨドを見た。ヨドは遠い目をしていた。 「……ヨドは青の王子さまの部下なの?」 「意外だろうか?」 「意外というか……その、中立だと思っていたの」 ヨドは寂しげに微笑んだ。 「幼い王子をひとりで、王宮から去らせるわけにはいかないだろう?」 ルクソニアははっとした顔をして、ヨドを見た。まだ見ぬ青の王子の幼い背中を想像し、ルクソニアは胸を痛める。 「ヨドは優しいのね。 きっと青の王子さまも、あなたがついてきてくれて感謝していると思うわ」 そう言ってルクソニアはニコッと笑う。それを見たヨドも、つられてクスッと笑った。 「彼はそんな殊勝な性格ではないよ、ルクソニア嬢。 賢いがわがままで、人を困らせるのが何よりも好きな、困った方だ」 ヨドはふわりと微笑んだ。
/214ページ

最初のコメントを投稿しよう!

187人が本棚に入れています
本棚に追加