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「それって、田舎で前向きに頑張っているってこと? とても素敵なことだわ!」
満面の笑顔でルクソニアは言った。
「前向き……というと語弊はあるが、青の王子が虎視眈々と、未来に向けて準備をしてきたのは確かだ」
それを聞き、ルクソニアは眉間にシワを寄せて不満げに言った。
「……なんだか含みのある言い方をするのね、ヨド」
ぷくーっと頬を膨らませて、ジーっと物言いたげにヨドを見るルクソニア。ヨドは少し困ったように微笑んだ。
「ルクソニア嬢。
夢を見ているところ申し訳ないが、彼は3人いる王子の中でも抜群に性格が悪い。
一部の人間が彼を救世主だと崇めてはいるが、それがとんでもない誤解であることを、私はよく知っている」
ルクソニアはキョトンとした顔でヨドを見た。
「どういうこと?」
「彼は自身の陣営に、この国では卑しい身分とされている無能力者や獣人、奴隷の中から有能な人材を拾い上げ、積極的に起用をしている。それは人間らしい生活を奪われ、隷属するしかなかった彼らにとって、願ってもない奇跡ともいえる行いだ。
しかし実際のところは、悪評のせいで人が集まらず苦肉の策として起用したに過ぎない」
ルクソニアは目をパチパチした後、少しすねた。
「たとえ事実がそうだったとしても、実際に感謝している人がいるんでしょう?
なら、結果オーライじゃないかしら」
ヨドは儚げに微笑むと、ルクソニアを諭すように言った。
「ルクソニア嬢。
毎回無理難題を突きつけては、部下を酷使するような人間でも、同じことが言えるだろうか」
「えっ?」
「労働環境としては、青の陣営は最悪だといえる。人手がないのはもちろんだが、労働環境を悪化させている一番の原因は、魔法が使えないのに魔法が使える者と同じだけの成果を、青の王子が部下に求めるからだ。
かくいう私も、長旅の果てに森を歩かされた挙げ句、事前連絡なしであなたのお父上と会い、交渉しなければならない。
……我々の苦労を察してくれるだろうか、ルクソニア嬢」
ルクソニアはぽかんとした顔で、ヨドを見た。ヨドは遠い目をしていた。
「……ヨドは青の王子さまの部下なの?」
「意外だろうか?」
「意外というか……その、中立だと思っていたの」
ヨドは寂しげに微笑んだ。
「幼い王子をひとりで、王宮から去らせるわけにはいかないだろう?」
ルクソニアははっとした顔をして、ヨドを見た。まだ見ぬ青の王子の幼い背中を想像し、ルクソニアは胸を痛める。
「ヨドは優しいのね。
きっと青の王子さまも、あなたがついてきてくれて感謝していると思うわ」
そう言ってルクソニアはニコッと笑う。それを見たヨドも、つられてクスッと笑った。
「彼はそんな殊勝な性格ではないよ、ルクソニア嬢。
賢いがわがままで、人を困らせるのが何よりも好きな、困った方だ」
ヨドはふわりと微笑んだ。
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