エピソード1 元姫、森でイケオジと出会う。

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森の中、歩き疲れてしゃがみこんでいたルクソニアは、再び、歩くために立ち上がった。 木々が風に揺れるなか、何かが近づいてくる足音が、ルクソニアの耳へと届く。 ーー魔獣かもしれない。 ルクソニアは身構えた。 領地に人を住まわせることをよしとしなかったルクソニアの父親は、税収を別の方法で賄っていた。森に低レベルの魔獣を飼い殺し、入場料を取る代わりにレベル上げの鍛練場として騎士や魔法使いに森を解放したのだ。 領地の境界を警備する門番に3000ギルを払えば、1日好きなだけ低級魔獣狩り放題。効率よくレベルが上げられると口コミが広がり、知る人ぞ知る穴場スポットとして徐々に知名度をあげていた。いつしか人はこの森を、「はじまりの森」と呼ぶようになった。 そんな魔獣が闊歩する森の中で、人と出会う確率は半分である。 魔獣と出会ったが最後、握りこぶし大のバリアしか出せないルクソニアは、そばに落ちていた木の棒で応戦するくらいしか、生き残る方法がない。剣術を父親から習ってはいたものの、残念ながら魔獣を一人で倒すほどの腕前はなかった。完全につんでいる。 なんだかんだ言っても、ルクソニアはまだ幼い5歳の少女。魔獣に会ったら逃げればいいと、安易に考えていた。 近づいてくる足音に耳をすませながら、ルクソニアは喉をならし、唾を飲み込んだ。 目の前にある茂みがガサガサと揺れ、中から足音の主が姿を表した。 ルクソニアの目の前に現れたもの、それはーーローブをまとった人、だった。 気が抜けたルクソニアは、へなへなとその場に座り込んでしまう。 この出会いが後に彼女の運命を大きく変える出会いになるとは、その時のルクソニアには知るよしもなかった。
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