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ミラールは大声で言った。彼女らの耳に鋭い破裂音が届いた。ミラールは、その音に聞き憶えがあった。ドラゴンのブレスによる空気爆発だ。
「急ぎましょう。ヘタをすると大惨事になるわ」ミラールはそこまで言って、ふと思いついた。「カーツ、バスターも呼んで来て」
ミラール達が現場に着いた時、森は火の海であった。ドラゴンは既にどこかヘ飛び去った後で、新たな火災の心配はないが、このままでは教会のみならず、このイウリアスの森全体が名の通り死の森になりかねなかった。
「うわー。こりゃすげえ」
途中から合流したバスターが、呑気に言った。
「司祭様、司祭様は無事?」
ミラールの問いに、すすで黒くなったイグロウ本人が答えた。
「まあ、何とか大丈夫ですよ」
「よかった」ミラールは一息ついて、次にてきぱきと指示を出した。「ピート軍曹の分隊は、周りの木の枝を落として。トール軍曹の分隊は、井戸から水を汲んで、周りにかけて回って。これ以上の類焼は、何としても食い止めるのよ。リスキンは私について来て。残りは司祭様の言う事を聞いて。解散!」
皆、まるで訓練された将校のように動いた。軍事行動以外なら、彼らは有能な働き手なのだ。
兵隊達がそれぞれの仕事をしている間に、ミラールはリスキンと共に、火薬を樹木に仕掛けていった。火がそこまで来ているので、決死の作業である。
最後の一つをつけ終わった時、一個目の火薬が火事の熱で爆発した。次々と誘爆する。
「うわあっ!!」
ミラールとリスキンは、悲鳴を上げて逃げ出した。その背後で最後の一個が爆発し、二人とも吹き飛ばされた。
ミラールは爆風にひっくり返されながらも、自分の作業の手際を見直した。火薬をつけた樹々は皆火事場に向かって倒れ、森と火事場を一本の線で区切った形となった。
「ピート!線に沿った樹々の枝を落として!」
ミラールの指示を聞くか聞かないかのうちに、彼らは素早く木に登り、枝を落としにかかった。火がすぐ近くまで来ているので、危険この上ない作業である。ロウ伍長のマントに火が燃え移り、彼は慌ててマントを引きちぎった。
ミラールとリスキンの作業で、炎を直接かぶらなくなり、すぐ類焼する危険はなくなった。しかし、火勢は今だ衰えず、予断を許さぬ状境ではあった。
「隊長、井戸の水じゃとってもおっつかないだよ。このままじゃ教会も危ないに」
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