アルバドの最後の息子

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一番外側の焼けぼっくい処理をしていたアベル伍長は、何かを感じてふと立ち止まった。バスターの呪文で倒れた樹が、わずかに揺れたように思えたのだ。しばらく樹とにらめっこをしていたが、樹は動かない。 「おかしいやあ。動(いご)いたような気がしただけんがなあ」 アベルがそう呟いた時、今度ははっきりと樹が動いた。何か動物のうめき声のようなものも聞こえた 。 「何だいやあ、こんなところに…」 アベルは呟きながら樹の下をのぞき込んだ。と、ビクリとして素早く身を起こした。目を丸く見開き、顔は真っ青になっている。 「隊長ーっ!隊長ーっ!こっち来てよー!」 アベルは内心びびって大声で叫んだ。 その声は、鎮火作業をしている全員の耳に届いた。 「どうしたの?」 ミラールが、イグロウと共に真っ先に駆けつけて来た。 「隊長、これ、これ!」 アベルが指差すままに、ミラールは樹の下をのぞき込んだ。 そこには、体長七十クレグラノースほどの白いトカゲが横たわっていた。前脚よりかなり発達した後ろ脚にはケガをしており、血を流している。まるで何かを訴えるように、ミラールを見つめた。 「ありゃー、おっきなトカゲですねぇ。何ですか、こりゃ」 後ろからのぞき込んだイグロウがそう言うのにも答えず、ミラールは自分のマントを外すと、トカゲをそれでくるんで取り上げた。 「うわー、おっきいなー。隊長、なんだいや、それ」 ロペルの問いに、バスターが代わって答えた。 「そいつは、ラフト・ドラゴンの幼生だ」 一瞬、兵隊達全員が静まり返る。 「ラ……、ラフト・ドラゴン、ですか…」 しばらくして、イグロウがようやく口を開いた。 ミラールは無言で頷いた。 「ラフト・ドラゴンって言ったら、『偉大なる神の騎馬』の事だら?」 マーカスの問いにも、ミラールは無言で頷いた。ミラールは、ラフト・ドラゴンを見るのはこれが初めてではない。しかし、その幼生を今、腕の中に抱いている、という事実は、彼女をひどく緊張させた。謎の多い『ドラゴン』という生物の中でも、ラフト・ドラゴンは最大の謎である。さすがのミラールも、その処理には頭を抱えるところであった。 【2】 とにかく、ミラールはドラゴンの幼生を兵営に連れて来た。何であろうとケガの手当てが先決である。 かと言って、ドラゴンの傷の手当てなど、おいそれと出来るわけもない。
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