アルバドの最後の息子

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リスキンの問いに、ミラールは明るい声で答えた。 「このコの名前よ。ドラゴンちゃん、今日から君の名前は『ラクソン(やんちゃ坊主)』よ。判った?」 それから寝るには時間が少なすぎるので、皆いつもより早く起きる事となった。兵隊達が朝食の用意をしている間に、ミラールはラクソンを連れて隊長室へ入った。リスキンも同行する。 隊長室は、バスターの呪文で壁が吹っ飛ばされたので、今は木材で応急処置をしてある。石造りの重荘な部屋が、まるで材木置場のようで、しかもすきま風が入り肌寒い。 ミラールは、ラクソンを自分の机の上に坐らせると、どっかりと椅子に腰を降ろした。リスキンは応接用ソファに腰を沈める。 「さて、ラクソン。どうせ早起きしてしまったんだから、この時間を使わせてもらうわ。あなたは、なぜあの森にいたの?」 ミラールの問いに、ラクソンは小さな翼をパタパタと打ち、火を吐く真似をして見せた。更に、足で蹴るしぐさをする。 「ははあ、なるほどね」ミラールは微笑を浮かべた。「あのレッド・ドラゴンにさらわれて来たっていうのね」 ラクソンは大きく頷いた。 ラクソンの身振り手振り、ミラールとリスキンの謎ときにより、彼の生い立ちとその境遇が判明した。 ラクソンは、エイフの東に高々と聳えるラウアー山脈の最高峰、ラフト山で生まれ、母親の巣の中で暮らしていたのであるが、たまたま母親が散歩(と、ミラールは判断した)に出掛けて留守の時、巣をレッド・ドラゴンが襲撃したのだ、という。『偉大なる神の騎馬』と讃えられ、地上の生物の中で最強の名を欲しいままにするラフト・ドラゴンといえど、幼生ではレッド・ドラゴンの成体には敵うはずもない。後ろ足で鷲掴みにされ、エイフの村まで拉致されて来たらしいのだ。 「なるほど…。誘拐されて来てしまった訳だ、君は」ミラールの目は優しい。「かわいそうに、心細かっただろうねぇ、母親と離れて」 「まあ、このケガでは、こいつ一匹だけではラフト山まで帰りつけんでしょうな」と、リスキン。「ケガが良くなって、一匹で帰れるようになるまで、うちで預かっておくしかないようですな」 それを聞いて、ラクソンは翼をパタパタいわせた。何やら喜んでいる様子である。
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