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そう言えば入学式典のあともシャオンは森にいたよな……
気になってシャオンの後を付けて行くと、あの千年は経つ巨木の前まできてピタリと足を止めた。
上を見上げて一番低い幹に手をかけると、慣れた様子で登り始めた。
「真夜中に木登りって…何やってんだあいつ……」
さっきまで塀を登ってた俺が言うのもなんだけど。
シャオンはある一定の高さまで登ると、身を屈めてなにかをじっと見つめていた。
なんだ…?あそこになんかあるのか……?
俺もシャオンに気付かれないように近くの木に登った。
シャオンが見つめる幹の根元には四角い出っ張りがあった。
それは自然に出来たようなものではなく、どこかへ通じる小さな木の扉のように見えた。
シャオンはその木の扉の真ん中部分にそっと右手を置いた。
そしてもう片方の手に魔法書を持ち〈オープン〉と唱えた。
今日習ったばかりの初歩的な解除魔法である。
ピシピシという解除魔法独特の音はするが、木の扉はピクリとも開かなかった。
どうやらあの木の扉には強力な封印魔法がかけられているようだった。
あんな初歩的な解除魔法ではおよそ破れやしないだろう……
シャオンは何度も解除しようと試みたのだが、無理だとわかったのか諦めたようにその扉から手を離した。
あの扉はなんだ?なんでシャオンはあの扉を開けたがっているんだ?
すっげえ気になるけど、聞いたってどうせ教えてくれねえよな……
……って、シャオンの奴……
今度はいったいなにやってんだ……?
シャオンは胸のペンダントを両手で握り締めた状態で目を瞑っていた。
静かに祈りを捧げているようなその崇高な姿に、思わずポウっと見とれてしまった。
シャオンはいつも同じペンダントを身に付けている。
それは深い緑色をした半透明の硬玉で、小鳥の卵ほどの大きさがある翡翠だった。
翡翠には銀糸で草花のような細工が施されており、かなり高価なものだということが一目でわかった。
あの年代物の魔法書といい、シャオンの親は相当な金持ちなのだろうか……
俺がそんなことを考えていると、ペンダントが淡く光り出してシャオンの体を包んだ。
その光は七色に美しく輝き、シャオンはまるでオーロラを身にまとっているかのようだった。
シャオンの髪が風になびくように揺らぐと、腰の辺りまで長く伸びていった。
男にしては少し華奢だったシャオンの体がみるみるうちに丸みを帯びて胸が膨らみ、腰がくびれていく……
………えっ?
ちょっと待て。
なにが……どうなってる?
シャオンを包んでいた光が消えると、そこにはどう転んで見ても100パー女にしか見えないシャオンがたたずんでいた。
シャオンが……女になった───────?!
グリーンだった瞳が、薄暗い中でも目立つほどに紅く染まっている……
あの時、俺が森で見た光の正体はこれだったのか……
これは魔法なのか?性別を変えれる魔法なんて初めて見たっ……
どんな魔法よりも高度なのは間違いない。
あいつ…デンデしか使えないんじゃなかったのか?
んなことより可愛いっ!
めちゃくちゃ可愛いっ!!
女になったシャオンは、少女と大人の狭間にある、危うい妖艶な雰囲気を漂わせていた。
俺は今目の前で起きた信じ難い出来事に驚くよりも、シャオンの神々しいまでの美しさに猛烈に感動していた。
シャオンは再び扉に手を当てると〈オープン〉と唱えた。
……諦めたんじゃなかったのか?
封印で使われている魔法とレベルが違いすぎるのに……
あれでは一晩かけても傷ひとつさえ付かないだろう。
の、はずなのだが……
扉は地割れのような音とともに一気に砕け散った。
初歩的な解除魔法なのに……注ぎ込んだ魔力がとんでもない量だったのだ。
レベル違いの封印魔法を力技でねじ伏せた感じだ。
女になったとたんなんなんだあの魔力の質量はっ?
シャオンはパックリと開いた穴に、なんの躊躇もなく入って行った。
「あれって…不法侵入だよな……」
しばらく待っていたのだが一向に戻ってくる気配がない。
幹づたいにシャオンのいた場所まで行ってみると、穴は人ひとりがやっと通れるくらいの大きさで、下へと続く石の階段が見えた。
砂まみれの階段にはシャオンの足跡がくっきりと残っていた。
足跡ぐらい消していけよ…ど素人かよ……
危険な香りがプンプンする。むしろヤバい匂いしかしない。
普段の俺なら間違いなく引き返す。
でも………
「……くっそ、あの野郎っ……」
俺はためらいながらもシャオンの後を追った。
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