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初日のスケジュールを終え、みんな寮にある各部屋へと移動した。
校舎は古くて辛気臭い建物だったが、寮は最近建てたらしく近代的で明るいイメージだった。
荷物の少ない俺はさっさと荷解きを終え、壁際に4つ並んだベッドの一つにゴロンと横たわった。
これから毎日このふかふかのベッドで寝れるのは単純に嬉しい。
「ツクモって言ったっけ?その桃色の髪の毛は自毛?この国の出身じゃないよね?」
桃色じゃねえよ……ピンクゴールドって言え。
フランクに話しかけてきたのはココア・キュリ・エラル。ルームメイトの内の一人だ。
クラスでした自己紹介によると、ココアは小人族と呼ばれているコビーナ村の出身の15歳だ。
体は140cmと小さいが、コビーナの人は魔力に長けている民族なので見た目よりはずっと優秀なのだろう。
「一番南にある国の出身だよ。小国だから名前言ったってわかんねえよ。」
「南?じゃあさ、ツクモは海の境目って見たことあるの?」
海の境目とは神話『三度目の審判』で、二度目に神が降り立った時に真っ二つに引き裂かれた大陸の跡のことだ。
境目を超えた向こうには未知なる大陸があるとかないとか……
今じゃ爺さん婆さんしか知らないような神話をココアが知っていることが意外だった。
「あるわけねえだろそんなもん。てか、南の海は年がら年中大嵐だから誰も寄り付きもしねえよ。」
ココアはそっか……と言ってショボンとした。
なんだろう…まるで俺が小さな子を虐めたみたいで後味が悪い……
荷解きを終え、机に向かって今日配られた教科書を開いて勉強し始めたのがもう一人のルームメイト、ダルド・レトルトン。
顔も体も厳つくてとてもココアと同じ15歳には見えない。
猛勉強してこの学校に入った、いわゆるガリ勉タイプである。
どう見ても肉体系なのだが……
先程からシャオンのことが気になるのか、教科書を見る振りをして横目でチラチラと姿を追ってやがる。
まあ、無理もないか……
中性的なシャオンの美しい外見に品のある身のこなし。
ただそこにいるだけなのに、とにかく目立つのだ。
「君の魔法書は随分と年代物だね。」
シャオンが鞄から魔法書を出すやいなや、ダルドが話しかけた。
なにか話すキッカケがないかとずっと探っていたのだろう……
ココアの目もクルクルと輝いた。
「本当だ。すごい装飾品が付いてる。骨董品なの?」
シャオンは二人の問いに、魔法書を持つ手を止めて冷淡に答えた。
「母の形見なんだ。」
シャオンの言葉にココアとダルドは顔を見合わせた。
まさかそんな答えが返ってくるとは思わなかったのだろう……
シャオンは二人の気まずさなど意にも返さず、淡々と荷解きを続けた。
他人を寄せ付けないその冷たい態度にカチンときた。
「はっ、マザコンかよ。」
クールを気取ってんだかなんだか知らねえけれど、感じが悪いったらない。
ベッドに寝転がっている俺のことをシャオンはギロりと睨んだ。
「言っとくけど……」
ゆっくりと話し出した口調には怒りが滲み出ていた。
「今朝のは失礼な態度を取った君が100%悪い!同じクラス、同じルームメイト、三年間も一緒でサイアクだと思っているのは、僕もっ、同じだ!!」
そう一気にまくし立てるとシャオンは部屋を出て行った。
なんだよあいつ……
意外と言うじゃねえか………
「何なに?今朝何があったの?」
興味津々でココアが尋ねてくる。
俺がチンチン触ったことを根に持ってやがったのか……?
別にそれくらい良くね?
男同志、減るもんじゃねえだろっ。
本来俺は面倒くさいことは嫌いで世の中楽しけりゃいいと考えている。
いつもなら自分からケンカをふっかけるような絡み方は絶対にしない。
なのに、だ。
シャオンを見てるとなぜだか突っかかりたくなってくるのだ。
「ねえツクモ。シャオンに謝りに行く?一緒に付いてってあげようか?」
「いらねえよ!あんな奴、もう関わりたくもねえわっ!」
なんなんだこの感情は……?
まるで子供が好きな子に振り向いて欲しくてわざと意地悪をするような………
いやいやまさか、俺にそんな趣味はない。
「シャオンてカッコイイよね〜。クラスの女の子なんかシャオンが自己紹介してる時、目がハートマークになってたもん。」
シャオンは自分の名前と年齢を16とだけ素っ気なく答えた。
そこが女子にはまたウケていたのだからやってられない。
ちなみに俺は18歳、最年長だ。
「まるで王子様みたいだよね〜。」
……王子様ってよりお姫様だろ。
華やかなドレスを着たシャオンが、微笑みながら俺に向かって手を差し伸べてきた。
……って。なにを妄想してんだ俺は……
待て待て違うっ……
俺に、そんな趣味はないっ!
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