157人が本棚に入れています
本棚に追加
シャオンには日課がある。
それは毎朝誰よりも早く起きて身支度を整え、寮に届く新聞を借りて庭で読むことだ。
俺も今日は早起きをして、庭にある屋根付きのベンチに座っているシャオンに話しかけた。
「昨日のフレア、おまえの仕業だろ?」
少し離れた女子寮の窓から、シャオン君たら今日も素敵〜っときゃあきゃあ騒いでいる声が聞こえてきた。
チッ、朝っぱらからモテてやがる。
シャオンは周りのことに興味を示さない。
いつも何を考えているんだか、ポーカーフェイスな表情からは全く読み取れなかった。
「前に俺に食らわした電撃魔法って〈デンデ〉だろ?」
シャオンは新聞から目を離し、チラリとこちらを見た。
鮮やかなグリーンの瞳に捕らえられた気がして背中がゾクリとした。
「場所を変えよう。」
俺達はまだ人気のない校舎の裏へとやってきた。
なんだろう……誰もいない学校にシャオンと二人っきりだと思うと妙にドキドキしてしまう。
決して変な気が起きているわけじゃあないっ。
とにかく…とっとと聞いて、とっとと終わらせよう。
「鳴り物入りで入学してきた割にはいまいちパッとしねえな。おまえ、力をセーブしてるんだろ?」
シャオンは校舎の壁にもたれかかりながら黙って俺の話を聞いていた。
さっきからずっと無表情で、眉ひとつ動かさない。
「あん時出したデンデは明らかにレベル3だった。魔法書から馬鹿デカいフレアも出せるし、おまえって何の目的で入学したんだ?」
シャオンは眉を少ししかめて目を瞑ると、うんざりしたように長いため息を付いた。
「────君も……」
長い沈黙のあと、ようやくシャオンが重たい口を開いた。
「一日中サボってばかりだし、たまに授業に出ても寝ているし、忘れ物ばかりする。まるで小さな子供みたいだ。」
「う、うるせえ!俺は元々こんな学校来たくなかったんだよ!サボるのは昼間が苦手ってのもあって……てか、俺のことはどうだっていい!!」
何で俺はこんなにイラついてんだ?
こんな面倒くさいことに自分から首を突っ込むなんて……
こーんなツンツン野郎、放っておけばいいのにっ。
シャオンに尋問のように問いかけている自分が嫌になってくる。
ぐお〜っと頭を掻きむしる俺を見て、シャオンはまたため息を付いた。
「レベル3で出せる魔法は君に放った電撃魔法のデンデだけだ。母から身を守るためにと子供の頃に叩き込まれた。」
どんな風にされたら子供がレベル3の魔法を使いこなせるようになるんだよ……
鬼のような形相をしたシャオンの母親が浮かんだ。
「フレアはあの授業で初めて習った。後ろの生徒が気に触ることを言ってきたから手元が狂った。」
気に触ることって……
ボンボンに女の子みたいって言われたことか?
なんだよ…シャオンて結構ナイーヴだな……
しっかし、手元が狂ったからって他人の魔法書から炎出すか?
いくらなんでもノーコンすぎるだろっ。
「僕はただ魔法が学べればそれでいい。この学校で優秀な成績を残すことに興味はない。もういいだろ。」
予鈴を告げる鐘の音が、高々とそびえ立つ校舎のはるか頭上にあるベル塔からカランカランと鳴り出した。
教室へと向かうシャオンの後ろ姿が小さくなっていく……
みんな優秀な魔導師になりたくてこの学校に入ってきたっていうのに……
俺はポケットから煙草を取り出し、ゆっくりと吹かした。
「……変な奴。」
まあ俺も、他人のことは言えないか。
にしても……
初めてであんなどデカい炎を出せるなんて……
シャオンてどんだけ潜在能力秘めてんだ?
最初のコメントを投稿しよう!