「嫌だよ、タカセくん」

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 長い時を駆けたであろう木馬が、柔らかな光をまとって廻り続けている。飽きもせず、ただ幸せそうな笑顔を乗せて、何度も何度も同じ場所を。  今なら分かる。振り返りもしなかった退屈な日々が、なまぬるい幸せで満たされていたこと。  彼女には俺なんかより、もっとずっとふさわしい男がいるのだろう。でも俺には、莉心以外はいない。 「莉心。来月、プール行こう」  喉の奥から絞り出した弱々しい声に、彼女はようやく振り返った。メリーゴーランドの明かりが、彼女の輪郭を縁取っている。震える唇が、あのときと同じようにゆっくりと動く。 「……嫌だよ、タカセくん」  そう言った彼女の瞳は、淡い光の中で溺れていた。 ーendー
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